更新日:2016年5月27日

Japan Vision Vol.10|地域の未来を支える人岩手県盛岡市
株式会社岩鋳
岩清水 晃さん

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岩手県盛岡市で明治35年の創業から115年にわたり、南部鉄器をつくり続けている老舗メーカー、株式会社岩鋳(IWACHU) 代表取締役社長:岩清水 晃(いわしみず あきら)さんのメッセージをご紹介いたます。 南部鉄器の歴史は400年以上にのぼり、盛岡の歴史と自然が長い時間をかけてつくり上げた世界に誇る伝統工芸品として知られています。中でも代表的な「南部鉄瓶」の製造は、高度な技術と経験を必要とし、その工程は全68工程にもおよび、職人が一人前になるためには最低でも15年、鉄瓶に職人の名前が入るような「名工」になるまでには40年を要すると言われています。現代表の岩清水さんはその伝統を大切にしながらも、伝統だけに固執することに危機感を持ち、早くから南部鉄器が広く“世界中の家庭で使用される”ために取り組んできました。「岩鋳」を「IWACHU」として、世界的なブランドへと導いた匠からのメッセージ、そして未来への展望をぜひお聞きください。

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技術の継承と、時代に合わせた変化。

400年以上にわたる、南部鉄器の歴史の中で「IWACHU」ブランドが取り組んできたことは、伝統工芸の高い技術を継承しながら、常に時代の流れ・人々のニーズに対応して変化してきたことです。南部鉄器と言えば、伝統的な色彩である黒と茶色の鉄瓶や急須を想像される方が多いかと思います。実際に日本のお客さまにご購入いただいているのは、ほとんどがこの黒と茶の鉄瓶や急須ですが、海外では豊富なカラーバリエーションを持たせたものが多くの方に支持されています。少子高齢化による国内需要の減少リスクは何十年も前から顕在化していたため、我々も40年ほど前の、米国ドルの円相場が1ドル360円だった頃から、海外輸出をしていたことが、お客さまの新しいニーズを掴む大きなチャンスになってきました。
急須で様々な色彩を出すきっかけになったのは、25年ほど前のフランスの紅茶メーカーからの依頼でした。当初は伝統色以外の色彩を付ける技術も経験も無かったのですが、ヨーロッパの方々がティータイムをとても大事にされていて、且つ遊び心が豊かであることを知り、挑戦してみることにしました。ただし、色を付けたことにより南部鉄器としての品質が損なわれたのではまったく意味がありません。伝統技術を守りながらのカラー展開には非常に苦労し、職人たちが納得のいくレベルにするまでには、実に3年の期間を要しましたが、こうして完成した様々な色彩を持つ南部鉄器の急須は、まずフランスで、“曜日ごとに急須の色を分けた使い方”などの遊び心で人気に火が付き、その後アメリカへ。最後には日本国内でも多くのお客さまにご評価をいただくことができました。今では80色以上のバリエーションがあります。また、皆さま驚かれるかも知れませんが、海外展開を始める前に、当社の売り上げの約半分は「灰皿」でした。その後、喫煙者はどんどん減少し、それに伴い今では灰皿はほとんどゼロに近い状態です。それを補うために展開したのが、「すき焼き鍋」や「調理鍋」です。保温性が高く、均等に熱を保つことができる南部鉄器の技術が、調理鍋と見事にマッチし、家庭内に留まらず多くの一流シェフの方からもご好評をいただくことができました。しかし、一旦ブームに火が付くと、必ずと言って良いほど、海外から安価な類似品が入ってきます。また、全く逆発想の製品が登場したりと、競争は激化していくものです。南部鉄器の調理鍋も例外ではなく、まずアジアから、南部鉄器に類似した低価格の鍋がどんどん入ってきました。そしてヨーロッパからは、「見た目が美しくカラフルなホーロー」タイプの鍋が入ってきて、重くて黒色の南部鉄器の鍋は徐々に売れなくなっていきました。115年の歴史の中で最も苦労した時期です。
その後ピンチを救ったのが、前述の急須のカラーバリエーションです。

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南部鉄器の故郷である盛岡で、
南部鉄器をつくり続けていきます。

このように、ベースには常に「南部鉄器の高い技術」があり、伝統的な南部鉄器が売り上げの支えになってきましたが、伝統に固執するだけでは、多様性を求められる今の時代についていくことはできなかったと思います。また、南部鉄器は高価な商品であるため、品質の追い付いていない模倣品も必ず出回ってしまうリスクもあります。その中で、南部鉄器の故郷である盛岡の地で、しっかりと修業をしなければ「絶対に追い付けない品質」を磨き続け、類似ブランドを引き離すことが重要なのです。需要の拡大に対して、機械化で対応する業界も多いと思いますが、南部鉄器の伝統を守るために、「機械化してはならない聖域」は持ち続け、徹底的に「品質」にこだわった展開をしていくことが必要なのです。
国内でも南部鉄器の良さが再注目されたことで、「跡を継ぎたい」と地元に帰ってくる若い方も増えています。国の方でも、伝統工芸を守るために若手の採用に対する協力など、業界として非常に良い変化が起きています。今後、何が流行るかなんて誰にもわかりません。ただ私たちの“唯一の”強みである南部鉄器の伝統技術と、高い品質の製品をつくり続けること、そして変化を恐れず挑戦をし続けていれば、必ず道は開けると信じています。

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