更新日:2016年08月19日

Japan Vision Vol.25|地域の未来を支える人 岡山県備前市
備前焼職人
木村 肇さん

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100以上の窯元が軒を並べる備前市において、室町時代から続く備前焼窯元の六姓、木村家の伝統を受け継ぐ「一陽窯」:木村 肇(きむら はじめ)さんのメッセージをご紹介します。 約1000年の歴史を持つ備前焼が誕生した当初は、壺や甕など、庶民の生活雑器に過ぎませんでしたが、安土桃山時代に入り、豊臣秀吉や千利休などの茶人たちが、備前焼の素朴な美を「わび茶」の世界に取り入れたことで、その価値は芸術作品にまで昇華しました。木村 肇さんの祖父にあたる一陽窯の創始者:木村 一陽(きむら いちよう)さんは、木村家13代目の次男です。京都で陶芸を学んだあと備前に帰り、陶進舎を結成しました。その後、勲五等瑞宝賞を受賞、宮延園遊会にも招待され、さらに備前焼界初となる「伝統工芸士」にも認定された方です。1947年に木村総本家興楽園から独立して、一陽窯を設立しました。一陽窯の敷地には広い「工房」と迫力の「窯場」、そして美術館のように作品が展示された広い店舗があり、その脇に佇む風情ある日本家屋で、木村家の皆さんは暮らしています。そんな環境で育った木村肇さんは、生まれた時から生活の中に「陶芸」があり、作陶現場が遊び場だったそうです。まさに陶芸と共に生きてきた匠のメッセージを、皆さまもぜひご一読ください。

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備前焼を作る工程では、土作りが特に重要です。

小さい頃、窯の周りやお店の中を走り回り、鬼ごっこやかくれんぼで、窯の中に隠れたりして、よく親父に怒鳴られたことを覚えています。本格的に陶芸家としての道に入ったのは、21歳の時ですが、幼少の頃から職人さん達に作陶を教えて貰い、小学校時代には「菊練り(※土の中の空気を抜く作業、練られた土の塊が菊のように見えることに由来している)」がある程度は出来るようになり、高校時代には一陽窯の基本的な物は仕事として作っていました、なので実際のキャリアは定かではありません。

昔から作陶現場に遊びに行っては、「土」に触るのが好きでした。柔らかくて粘りがあり、またひんやりとした土の感じが僕にはとても気持ち良く、親父が居ないタイミングを見計らっては職人さんに「ちょっとやらせて!やらせて!」と教えを請い、親父に見つかると「出て行け!」と追い出されるといった具合です。100以上の窯元が軒を並べる備前市の中でも、ここは特に老舗の窯元が多く、僕が窯に火を入れていると、隣の窯の塀の上から職人さんがヒョコっと顔を出してきて、「今何℃くらい?」→「800℃くらい。もうちょっとだね」といった様に、近所の窯とはみな家族のように接しています。

備前焼を作る工程は、土作り→土練り(菊練り)→成形(ろくろにて)→窯詰め→窯焚き→手入れ、と大きく6つに分かれ、どれも大切な工程ですが、備前焼は釉薬(ゆうやく)を使わない素朴な自然美が特徴であるため、「土作り」は特に重要です。塊の状態にある土を1年ほど乾燥させてから、細かく砕き、それを水に浸しながら、1週間ほどかけて不純物を取り除きます。その後、「菊練り」で入念に空気を抜くと完成です。こうしてできた「土」は、とてもきめ細かくて、コシと粘りがあるため、ろくろでの成形に優れています。

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窯詰めは、過去の経験則から焼き上がった姿を予測し、ひとつひとつ並べていきます。

次に重要なのが「窯詰め」です。四段の「登り窯」に約3000個の器を詰めて行くのですが、「窯変」といって炎と煙のあたり方によって器の模様と色が決まります。出したい模様・色味・風合いを出せるように過去の経験則から、焼き上がった姿を予測してひとつひとつ並べていきます。そしていよいよ「窯焚き」です。「窯焚き」は1年に2回、春と秋に行いますが、一度窯に火を入れると、丸10日間ゆっくりと焼き続け、最高温度の1200℃を目指します。燃料は、油分の多い赤松の割木を使い、一度の窯焚きで使う割木は約10トンに上るため、正に真剣勝負です。こうして焼き上がった器は、それぞれが独自の模様・色味・風合いを持ち、「窯詰め」の時に想定していた通りになったり、ならなかったりと、これがまた楽しみです。

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僕の作品は、見て楽しい、使って楽しいが良い作品です。

陶芸家それぞれ、考えているテーマがあると思いますが、僕はそのテーマを考える事が好きです。茶道具・華道具・酒器・食器とさまざまな作品を作る中で、単なるインテリアではなく、人に使っていただくことで価値を生むものと考えています。どんなシーンで、どんな見られ方や、使われ方をして欲しいのか。そこを追求してひとつひとつ作陶することが大切です。「見て美しい!使って楽しい!」が僕にとっての良い作品です。社会科見学で来る子供たちから、「仕事の楽しさ」について聞かれる事があります。小さいころからこれまで、土にさわることがとにかく好きで、純粋に作陶を楽しんでいます。目に見えない完成形を想像しながら、毎日土と向き合う仕事、それをずっと続けられることが、何よりの「楽しさ」です。

作るものは、茶道・華道具が中心だった昔から、酒器・食器中心に変わってきていますし、時代と共に求められる模様、色味、風合いも変わってきています。そんな中でも、陰陽五行の「木・火・土・金・水」の要素をすべて含む備前焼は飽きの来ない自然の風合いがあり、歴史の中で本当に永く人々に愛されている焼き物です。そういう歴史の中にこそ、これから自分達の作るもののヒントが埋もれています。それとは別に、横軸で同世代の工芸家たちの制作の現場を訪ね、学び、対話をして、ひとつの作品を共創することも僕の「楽しさ」の大きな要素です。この夏は備中和紙職人の丹下 直樹(たんげ なおき)さんに、風鈴専用の和紙を漉いてもらいました。

これからも「好き」をとことんまで考え「行動」することで想像だけで終わらせず、備前焼の持つ可能性、楽しみを見つけ続けて行きたいと思います!

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