更新日:2016年09月12日

Japan Vision Vol.29|地域の未来を支える人 岡山県倉敷市
備中和紙職人
丹下 直樹さん

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1200年もの歴史を持つ良質和紙「備中和紙」職人:丹下直樹(たんげなおき)さんのメッセージをご紹介します。 丹下さんは、備中和紙の産みの親・岡山県指定重要無形文化財に認定されている、丹下哲夫(たんげてつお)さんの孫にあたり、「備中和紙」の後継者です。 備中和紙の歴史は古く、その製造技術は800年ごろに奈良から伝わりました。平安時代に和紙の需要が高まる中、良質な原料を多く産出する備中地方は和紙の一大産地となり、その繁栄は江戸時代まで続きます。しかし、明治時代に入ると、産業化と共に洋紙の需要に押され、和紙の生産は徐々に減少しました。備中和紙の源流である「清川内紙(せいごうちがみ)」は、旧備中町の成羽川(なりわがわ)沿いで漉(す)かれていましたが、昭和39年の新成羽川ダム建設により、その歴史に一旦幕を閉じます。その技術・技法を蘇らせたのが、直樹さんの祖父である哲夫さんです。 哲夫さんはたゆまぬ研究と工夫を重ね、中折・便箋・封筒・葉書・名刺・書道用紙などを開拓、その品質は高く評価され、備中和紙の伝統と技術の高さは、再び全国に知られることとなりました。そして現在、直樹さんに受け継がれています。 哲夫さんの代から、半世紀以上も使われているこちらの工房は、幼少時代の直樹さんにとって良き遊び場であり、哲夫さんの和紙作りに触れる場所でもありました。そして現在では、和紙職人としての大切な工房です。先代の意思を受け継ぎ、一切の妥協を許さない和紙作りと、備中和紙の可能性を拡げるための挑戦を続けている匠のメッセージ、ぜひご一読ください。

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祖父が使っていた道具を、いまでも使い続けています。

僕の師匠であり祖父でもある丹下哲夫は、もともと丹下家の家業であった「和紙作り」を継承する七代目にあたります。ご紹介の通り「備中和紙」として創始者となったため、僕が二代目と言うことになりますが、和紙作りを生涯やり遂げることで初めてそう呼ばれる資格があると思います。20歳の時にこの道に入り、今年で17年目ですので、まだそう呼ぶには早いのではないでしょうか。
備中和紙職人として祖父のキャリアは60年以上と長く、幼少の頃からこの工房で、祖父の和紙作りを見てきました。仕事が早く丁寧な祖父が使っていた道具を、いまでも使い続けています。備中和紙の原料である「ミツマタ」を煮るこの鉄釜(直径2メートル近くもある大きな釜)も、櫂棒(かいぼう)も祖父から受け継いだ大切な道具です。和紙の主な原料は、最も多く使用されている「コウゾ」の他に、「ガンピ」と「ミツマタ」がありますが、備中和紙では100%「ミツマタ」を使用します。岡山が日本有数のミツマタ産地であり、「備中和紙」と銘打つからには、地元の原料にこだわるべきだと考えています。

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イメージ通りになるまで、妥協を絶対にしないことです。

備中和紙の製造工程は、このミツマタを一晩水に浸してふやかすことから始まり、2時間ほどかけて、程よく、くたくたになるまで煮る→煮たミツマタを晒す(さらす)→不純物を取り除く、塵撰り(ちりより)→結束している繊維を叩きほぐす叩解(こうかい)→濾過(ろか)→染め(染料を入れる場合)、そして紙漉き(かみすき)へと進み、湿床付け(しとづけ)→脱水→天日干しを経て、必要な大きさに裁断して仕上がります。できた和紙を乾燥させるには、「天日干し」で行う場合もあれば、特注で作った、中にボイラーが入っているステンレス製の乾燥器を使用する場合もあり、作りたい和紙の特徴によって、道具や乾燥のさせ方を使い分けます。どの工程においても、心掛けていることは、イメージ通りになるまで、「とりあえず」や「まあいいか」という妥協を、絶対にしないことです。

こだわり抜いた部分も、妥協した部分も、一枚一枚の和紙に「品質」となって必ず現れます。厳しい要求と厳しい合格ラインを自ら設定して、それに応えて行くことに、職人としてのレベルアップがあると考えています。3年程前に、プロダクトデザイナー:角田陽太(かくだようた)さんとの共創で、A4サイズでプリンターでも印刷ができる「KAMI」という、和紙を作ったことがありました。薬品をいっさい使わずに、手漉きでどこまでの品質が出せるか、本気で取り組んだ仕事です。プロダクトデザイナーとして超一流の評価を得ている角田さんは、すべての問題点を一瞬で見極めて言葉にできる方でした。また求める品質に一切の妥協を許さない点が僕と同じで、その時イメージした和紙をつくるためには、これまで使っていた道具では出来ないと判断し、乾燥機などの道具も新調したほどです。技術的に難しいことがあっても、実現できれば、素晴らしい商品になる!と信じて取り組んだ結果、「KAMI」は非常に高く評価され、平成25年度日本民藝館展で、奨励賞を受賞することができました。
自分が気付けない視点から、改善点を指摘してもらい、双方の強みを活かしながら素晴らしい商品を共創する取り組みは、大変な労力と気力・体力が必要ですが、今後も続けていきたいと思います。「備中和紙の特徴や魅力は?」とよく質問を受けますが、僕にとっては「ただの紙」です。和紙の使い方や評価は、使う人が決めるべきだと思います。「和紙」ということで変に敷居を高くしたり、緊張しすぎてしまうと、和紙に書く内容にまで影響をあたえてしまいかねないので、あくまでも「紙」として使っていただきたいのです。もっと手軽に手に取って使って欲しいと思い、親しみをもたれやすいパッケージデザインにするなど、工夫をしています。出てきたアイディアを、自分で形にしていますが、こういった「製品化」の仕事も、その道のプロの方と組んでやることで、さらに面白くなるのではないでしょうか。

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和紙が世界遺産にも認定され話題になっています。

和紙が世界遺産にも認定され話題になっていますが、その影で模造品が出てきて、違うモノが和紙だと認識されてしまうリスクや、注目を浴びることで、「新しいモノを創らなくなる=つまり進化が止まってしまう」リスクも感じています。僕は和紙職人であり、ここは新しいものを産み出す工房です。これからも歴史に胡坐(あぐら)をかくことなく、より高い品質と可能性を追求した和紙作りを続けていきます!

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