更新日:2017年04月07日

Japan Vision Vol.56|地域の未来を支える人 神奈川県川崎市
ブリマー・ブルーイング株式会社
代表取締役 小黒 佳子さん
醸造責任者 スコット ブリマーさん

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神奈川県川崎市で本格クラフトビールの製造・販売を手掛けるブリマー・ブルーイング株式会社 代表取締役:小黒佳子(おぐろ よしこ)さんと、小黒さんの夫であり醸造責任者のスコット・ブリマー(Scott Brimmer)さんのメッセージをご紹介します。
地元川崎市の「クラフトビールブランド」として、2011年に誕生した「BRIMMER BREWING」は、豊富なビール醸造経験を持つカリフォルニア州出身のスコットさんが醸造責任者、小黒さんは経営者としてさまざまな免許申請や資金繰りを担当しています。
そして酒販店やクラフトビールバー、百貨店などへの営業を2人で行う、まさに夫婦二人三脚の経営スタイルです。
良質の原材料と伝統的製法で徹底的に品質にこだわるスコットさんのビールは、地元川崎市を中心に着実にファンを集めてきました。
そして現在、より多くの方の身近な存在になりたいと、新たに工場を増設中です。

小黒さんはハリウッド映画や、アメリカ文化への強い興味から海外留学。
在学中の出会いがきっかけとなり国際結婚。夫婦で帰国後、まったく想定していなかったビール業界で自らが代表を務めることになった小黒さん。
そしてそれを支える夫・スコットさんのお話には、文化や考え方の違いを柔軟に受け入れ、プラスの力に変えるヒントがたくさんありました。
そんなお2人のメッセージをぜひご一読ください。

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「今度は私が相談に応える番だ!」と思い、夫婦でチャレンジすることに決めました。

<小黒さん>
在学中に知り合ったスコットと卒業後に結婚し、その後4年間アメリカで暮らしましたが、川崎市の家族のことがどうしても心配になり日本への移住を相談したところ、なんと彼はあっさりOKしてくれました。
その後カリフォルニアのビール工場で長い醸造経験を持つスコットのキャリアを活かせて、川崎からもそう遠くない場所として静岡県に住むことになります。
スコットは静岡県の大手ビール会社、私は英会話スクールの講師として勤務しました。

そんな生活が5年ほど続いた頃、スコットの中で「自分自身のビール作り」に対する想いが強くなり、それを私に伝えてくれました。
規模の大きなビール会社で大量生産を前提としたビール作りをするのではなく、職人としてのこだわりを“100%実現できる”ビール作りがしたい!というものです。
「今度は私が相談に応える番だ!」と思い、夫婦でチャレンジすることを決めました。

どこでやるかを考えた時、競合が多い静岡県よりもどうせなら地元でやろう!と考え、また他にビール会社が1つしかなかったこともチャンスと感じて、川崎で起業することにしました。
まず先に会社を設立し、その後にビール工場をつくることができる物件と、必要な機械・設備を探そうと色んな知り合いに協力を仰ぎました。
ビール作りに関することはすべてスコットが担当、資金繰りやさまざまな免許申請はすべて私といった形で役割を分け、それぞれの“任務”を進めていきました。

もっとも想定外だったのは、「ビール製造免許申請」です。
これは後からわかった事なのですが、申請から認可が下りるまで最低でも4ヵ月、長いと半年以上も時間がかかります。
ここで計画の甘さが露呈してしまったのですが、すでに工場の場所も決まり、機械の導入も済んで、お互いに前の仕事は辞めてしまっています。
さらにまだ小さい子どもを抱えながら、いつ認可が下りるか見当が付かないという状況は、本当~に辛かったです。夫婦喧嘩も多発していました。(笑) 
しかし、スコットの「なんとかなるさ!」という楽観的で前向きな性格に救われました。
ようやく認可が下り、晴れて「100%こだわりのビール作り」がスタートしました。

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お客さまの口に入るまでビールの中で酵母菌が生きています。

<スコットさん>
「クラフトビール」を直訳すると「職人による手作りビール」です。
クラフトビールを名乗るビール会社はたくさんありますが、実はその定義は明確には決められていません。
僕が考える「クラフトビール」は、良質な天然の原料を選び、伝統製法で作るビールのことです。
ここで言う「伝統製法」とは、麦芽・ホップ(苦みと香り)・水・酵母、この4つの原料のみを使い、100%手作り製法のビールを指します。
これが発祥からずっと続いているビール作りだからです。
ビールの元になる麦汁を濃縮した「モルトエクスラクト」を他所から仕入れて、それを薄めてビールを作る会社もありますが、僕たちは原料の状態から100%手作りで丁寧に醸造します。
求めるビールは、苦みが強くどっしりとした味わいのアメリカンスタイルと、ライトな口当たりとマイルドな味わいが主流の欧州スタイルの、双方の良いところを活かしたビールです。
そしてうちのビールの一番の特徴は、醸造が終わった後に酵母菌を排除し、発酵を止めるための「加熱処理」を行わないことです。
そのため、お客さまの口に入るまでビールの中で酵母菌が生きています。
現状は「生ビール」の定義も明確にはありませんが、これが本当の意味での「生ビール」だと思います。
また、醸造が終わった後に余分に発酵をさせないため、現在醸造している4種類のビール(ペールエール・ポーター・ゴールデンエール・スペシャルビール)すべてが「要冷蔵」です。
保管する時もお届けの時も、すべて冷やした状態で管理しています。
なぜこの「生ビール」にこだわるかというと、純粋に「美味い!」からです。
加熱処理は賞味期限を延ばすことができて常温管理ができるというメリットがありますが、ビールにとってもっとも重要なフレーバー(香り)が損なわれてしまいます。
大手にはできない私たちの1番の強みとして、「美味さ」につながることは何でもやりたい!という想いで「生ビール」にこだわっています。

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親が子どもに対して持つ愛情と同じで、純粋に「ビールが好き」なんだと思います。

<小黒さん>
ビール作りの話をしている時、実際にビールを作っている時のスコットは、子どもみたいな顔をしていて本当に楽しそうです。
「ビール職人」としての国家試験や明確な認定制度はありませんが、一人前のビール職人になるために必要な経験や心構えをスコットにきくと、「とにかくビールを作ることが大好き!」という答えが返ってきますし、私もそう思います。
思い通りの味が出せなくて、もやもやして帰ってくる日もあります。
最高の仕込みが出来て、天にも昇るような表情で帰ってくる日もあります。
親が子どもに対して持つ愛情と同じで、どんな状況でも純粋に「ビールが好き」なんだと思います。
理想のビールを作るために研究して、仮説を立てて、試して、振り返って、また作る。
そんなプロセスの一つひとつが楽しい!という人が、ビール職人なのだと思います。


<スコットさん>
おかげさまで地元の方を中心に、多くの方に飲んでいただいています。
これから、より多くの方にとって身近なビールでありたいと、新たに工場を増設中です。
足元でやっていることをしっかりと行いながら、さらに美味さと品質を磨く努力を続けていきます。
どんな時でも「美味しい!」と感じ、くつろげるビール。
仕事で頑張った後に飲めば、ほっと一息つけるビール。
辛いことや悲しいことがあった時に飲めば、「世の中捨てたものじゃない!」と思えるようなビール。
そんなブランドを目指して行きたいと思います。

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1番ありがたかったのは、自分と真逆のタイプであるスコットが夫でいてくれたことだと思います。

<小黒さん>
私は1人では何もできません。
いつも周囲の方のご協力や、アドバイスに助けていただきました。
そしてこれまでを振り返って1番ありがたかったのは、自分と真逆のタイプであるスコットが夫でいてくれたことだと思います。
会社を立ち上げるきっかけをつくってくれたのも、また、製造免許の申請や資金繰りで行き詰まった時に楽観的な気持ちに切り替えさせてくれたのもスコットです。

自分と同じタイプの人といっしょに居ることは良い部分もあると思いますが、すぐに行き詰まってしまう気がします。
自分と逆のタイプだとぶつかることも多いですが、救われることも多い。
また色んなことに対して「第三者の意見」として捉えることができるから、長い目でみてプラスなことが多いのではないでしょうか。

それと、これまで会社を経営してきて、「性別による区別」というものが無くなってきているように感じます。
業種にもよるかもしれませんが、まだまだ女性が少ないビール業界に入って「女性であること」を理由とする不利益を感じたことは1度もありません。
わたしが、自分を女だと思ったことがないからかもしれませんが(笑)

世の中は良い方向に変わっている!と考えて、これからもスコットと二人三脚で歩んでいきます!

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