更新日:2017年06月30日

Japan Vision Vol.67|地域の未来を支える人 東京都文京区
有限会社原田左官工業所 代表取締役社長
原田 宗亮さん

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東京都文京区で昭和24年の創業以来68年に亘り、卓越した「左官の技術」をもって、さまざまなデザイン・テイストの内装、壁や床の施行を手掛ける、原田左官工業所 代表取締役社長:原田 宗亮(はらだ むねあき)さんのメッセージをご紹介します。

「左官業」と聞くと、熟練の職人が鏝(こて)で塗り上げる、漆喰(しっくい)の白い壁を想像する方が多いのではないでしょうか。原田さんが手がける左官の仕事は、白漆喰・黒漆喰はもとより、木や藁(わら)、石や貝殻などさまざまな素材を活用するだけでなく、豊富な色味も実現し、家庭で使う家具、レストランやバーのテーブル、カウンター、壁や天井の他、マンションや大型商業施設の共有スペースまで、幅広いニーズに応えています。
独自の人材育成ノウハウで、多くの若手職人や女性の職人が活躍している点も、原田さんならではの特色であり強みです。創業以来守ってきた左官の技術を継承しながら、常に新しい価値を考え、カタチにしている匠のメッセージを、ぜひご一読ください。

■原田 宗亮さんのメッセージ
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左官の仕事は、とても間口が広く、そして奥行きの深い仕事です。
「左官」の仕事について質問を受ける際に、比較的身近にイメージしてもらえるものとしては、やはり「漆喰の白壁」です。また、左官の仕事は、「壁を塗るだけ」と認識されている方も多くいるのですが、私たちは防水加工からタイル貼りなどの仕上げまでをすべて行っています。
冒頭で「間口が広く、奥行きが深い仕事」と伝えたのは、ひとつひとつの骨材・粉体・液体の他、さまざまな素材を組み合わせることで、無限にオリジナルなものを作ることが出来るからです。このことを具体的にイメージされているお客さまはほとんどいません。
以前は、家を建てる際には工務店と左官屋が当たり前の様に一緒に仕事をしていましたが、現在では組み立て式の建物が多く、また出来上がっている壁を貼りつけるだけの仕事も増え、左官屋が居なくても家が建つため、工務店の方でさえ、左官の仕事をよく知らないケースがあるくらいです。

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業界唯一の「提案型左官」について。

無限にオリジナルのものを作れるということは、逆に言うと「雛形」がないということです。その中で、お客さまが作りたいものを具体的にイメージしてもらうために、「SAKAN LIBRARY」というショールームを用意し、左官でどんなことが実現出来るのかを明確にお伝えするようにしています。
そこでお見せするのは、これまで手掛けてきたオリジナルの仕事の数々です。例えば大手のカフェチェーンで実現した、珈琲豆を散りばめて世界地図を描いた壁や、くり抜いてある銘木の中央を赤のモールテックスで仕上げたレストラン・バーのカウンター、石膏(せっこう)ボードの上に敢えてコンクリート打ち放し風の仕上げを施した壁など、過去に作ってきたアウトプットをみてもらいながら、お客さまの要望に合わせて、作るものを固めていきます。
真っ白な漆喰の壁に藁をいれればこうなる。白い石を入れて、敢えて粗く塗るとこういう風合いの壁になる。さらに、色を入れるとこんなバリエーションができる。他にも、砂・石・ガラス・貝殻などの素材を合わせることで、風合いも色味も無限に選べるということを実感してもらえます。

我々がご提案する「7種類のオリジナル左官」は、こうした経験から生まれたもので、ご要望をいただくケースの多い素材、風合いや色味を「オリジナル左官」としてシリーズ展開したものです。
最初のきっかけは、ある鉄工所のお客さまから工場の壁や床を作る仕事の依頼を受けたことです。そのお客さまのご要望には私も驚いたのですが、「鉄が削られてできる“鉄くず”を、壁や床に入れて作って欲しい!」というものでした。鉄工所で日々出る「鉄くず」を、敢えて壁や床に入れることで、創業からの建物の記憶を次の世代に残したい!という経営者の想いがこもった依頼です。
お客さまと話し合いを重ね、最終的に白い新品の漆喰に敢えて色味を加えてレトロ感を出した壁が完成し、大変満足してもらいました。
このように、左官は今でも鏝(こて)を使い、すべて職人の手で仕上げるために温かみがあり、世の中にひとつと同じものはありません。
また、仕事がかたちとして永く残ることも魅力の一つだと思います。

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若手の職人・女性職人の活躍。

「左官」と聞くと、男社会・ベテランの職人社会というイメージを持たれる方が多いのですが、原田左官には若手の職人、女性職人が多く活躍しています。学歴や職歴はさまざまですが、モノを作る仕事、建築の仕事に興味を持っている若者が増えています。
また、「働き方の多様化」が進んでいる現在、若い人ほどそれを認識していて、色んな仕事を経験出来ることに魅力を感じている様です。左官の仕事は、ほぼすべてが現場仕事で、今日は観光施設の仕事をやっていたかと思えば、明日は銀座のデパート、その次の日はレストランやバーといった様に、ひとつひとつ内容が異なるため、「多様」なことを体験できる働き方が好きな人に合っているのだと思います。

今後も左官の仕事を残して行くことを考えた時に、若い方や女性の活躍は非常に頼もしいことですし、先輩である我々が率先して、彼らの後押しをしなければなりません。原田左官では20年ほど前から、4年間で「職人」と呼べるレベルに育成する独自の教育プログラムを用意しています。
入社した人が、最初に経験する「モデリング」では、社内で「名人」と言われている人の仕事を「映像」でみて、その後すぐ名人芸の真似をしながら、実際に壁を塗ってみる!というものです。
正しい仕事のやり方を映像で見てイメージしながら、それをとにかく真似してみる。畳一枚分の大きさの壁を、1時間で20枚塗れることが最初のハードルです。畳一枚3分というのはそんなに難しいことでは無いのですが、それを連続で20枚やるとなると、体力だけでなく身体の使い方が重要になってきます。それをクリアーするために、自然と体の使い方を覚えます。※これは経験者がやっても出来ない人の方が多いです。
これを毎日やると、1カ月間くらいでなんとかできるようになりますが、それは単に一つの形を覚えただけです。その課題をクリアーして初めて、仕事の品質と綺麗さ・正確さを追求する段階に入ります。塗る「土」の素材も自分で作り、それを水で溶かして使うため、仕事の難しさと共に原料の大切さも実感してもらうことができるのです。

そこから先輩職人の助手としてさまざまな現場で経験を積み、4年間が経つと、「職人」として認定され、現場で「リーダー」をやらせてもらえるようになります。認定式で贈呈する4年間の頑張りを綴ったアルバムは、本人だけでなく親御さんにも好評です。
職人になり、今度は自分が「リーダー」としてさまざまな人と関わる現場をこなすことで、改めて仕事の大変さや責任感が出てきます。男性・女性を問わず、上手く仕切れずに時には泣いてしまうようなこともありますが、だんだんと物怖じしなくなり、そのうち見事に現場を仕切るようになります・

昔の左官の世界では、先輩が「教える」ということをほとんどしませんでした。どの職人の世界でも「見て盗め!身体で覚えろ!」が常識で、一人前になるには最低十年と言われていました。やったことない人に「盗め!」と言っても、手探り状態で意味もわからず、無駄な時間を過ごしてしまいますし、先行きが見えない今の時代に10年間というのは、若い方にとっては長すぎます。自分の仕事・将来像をイメージし、やり甲斐をもって仕事に打ち込めるように!と20年の間に劇的にやり方を変えました。変化にはそれなりの時間が掛かりましたが、さまざまな工夫を重ねながら確立できたと思います。 ※2017年2月:「新たな“プロ”の育て方」として書籍になりました。

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次世代を担う皆さまへ。

これからはものすごく変化が求められる時代です。同じものを量産することに価値は無くなり、人の「好き」や「こだわり」に刺さるものが価値を生みます。だからこそ、「お客さまが本当に求めているのは何なのか?」それを自ら引き出せる人、実現できる人になって欲しいと思います。

それを実現するためには、仕事以外でも自分の興味あるもの、素晴らしいと思うものをたくさん見てください。
その「寄り道」は、やがて「自分の道」に繋がって行きます。私たちの経営理念にも掲げている「夢とロマン」をもって、仕事もプライベートも思い切り楽しんでください。

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