更新日:2017年08月28日

Japan Vision Vol.75|地域の未来を支える人 北海道石狩郡当別町
桧山農場代表/書家
檜山 雅一さん  檜山 由美さん

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北海道石狩郡当別町で“自然栽培”“有機栽培”農法にこだわったお米作りをしている、桧山農場代表:檜山雅一(ひやま まさかず)さん、そして雅一さんのお米作りを支えながら「書家」としても活躍されている、檜山由美(ひやま ゆみ)さんご夫妻のメッセージをご紹介します。

檜山さんが手掛ける「有機栽培」とは、お米農家では当たり前のように使用されている除草剤・殺菌・殺虫剤や化学物質の肥料をいっさい使用せずに認定済みの有機肥料を使用してお米を育てる栽培方法です。さらに「自然栽培」では、農薬や化学肥料だけでなく、“堆肥(たいひ)”や“有機肥料”、さらに土の中の栄養を摂(と)ってしまう雑草を除去する「除草剤」さえも使用していません。
まさに土本来の力を発揮させ、ありのまま・自然のままの環境でお米を育てる栽培方法なのです。この方法でお米を育てるには膨大な手間ときめ細かな管理が必要ですが、「その苦労に見合うだけの確かな“安心”と“美味しさ”があり、日本全国にその品質を求めるお客さまがいらっしゃる」と檜山さんは言います。
妻の由美さんの書「青い空 広い大地 一粒の愛」は、お二人のお米作りへの想いが込められた言葉で、桧山農場の代表銘柄「ゆめぴりか」にもしっかりと書かれています。ご夫婦二人三脚で、全国のファンに安心の美味しさを届ける匠のメッセージを、皆さまもぜひご一読ください。

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雪がとける春になると、田んぼが健康な姿を見せてくれるのです。

<檜山 雅一さん:桧山農場の歩み>
桧山農場は、今から約70年前(1950年)に私の父:檜山喜三が、当時まだ原野だったこの土地に鍬(くわ)を入れ、馬と人力で開墾したことが始まりです。明日食べていくこと・生きていくことが大変だった父の時代、10ヘクタールにもおよぶ広大な原野を、機械も使わずに開墾する苦労は今では想像がつかないほどのものだったと思います。冬の寒さが厳しい北海道は、11月に入ると一面雪に覆われます。そのためお米を栽培できる期間は短く、農期も1年に1度だけです。意外に思われるかもしれませんが、実はこの「雪」が田んぼにとっては良いのです。雪の降らない土地では、農期でない時期は土が風にさらされて、土が乾燥したり凍結したりしてしまいますが、北海道では雪が布団の代わりとなり土が凍結することはありません。雪がとける春になると、田んぼが健康な姿を見せてくれるのです。

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自然栽培への挑戦。

父の跡を継ぎ40年前に面積を10ヘクタールに拡大、農家として経験を積んでいくうちに、「有機栽培」「自然栽培」というものに興味を持ち、今から10年ほど前に、農薬を使わないお米の栽培を始めました。何度も試行錯誤を繰り返し、ようやく確立することができたこの農法ですが、実ははじめた当初は家族の理解を得られずに、一度断念したことがあります。
ちなみに「有機栽培」の定義は、農薬や化学肥料をいっさい使用せずにお米を育てる栽培方法を指します。「自然栽培」 には明確な定義がありませんが、私たちは農薬や化学肥料だけでなく“堆肥”や“有機肥料”、さらに土の中の栄養を摂ってしまう雑草を除去する「除草剤」も使用しない栽培方法と決めています。りんごの完全自然栽培を実現した、「奇跡のりんご」で有名な木村秋則さんからもレクチャーをしてもらい、このように決めました。この栽培方法を始めた一番のきっかけは、農薬が自分の体に合わないことを知ったこと。また、農業制度が改正され「農協」に卸すだけでなく「個人販売」という農家にとっての選択肢が増えたことも転機でした。お客さまがお米のブランドを選べる範囲が増えていく中、「指名して買っていただけるようなお米を作ろう!」と差別化を考えた時に、自分自身も買いたくなる「安心の品質で、しかも美味しいお米」に着目しました。

有機栽培と自然栽培。この農法がどれだけ大変なものかは、実際にやってみないと想像ができませんでした。苗作りの段階から、とにかく計画通りにいかないのです。ビニールハウスを丸々一つ分ダメにしてしまったこともあります。そして苗付けをした後は、天候や周辺環境の影響を受けやすいほか、田んぼの周囲に生えてくる雑草の成長が驚くほど早く、毎日のように雑草を除去しないとお米に摂ってほしい土の中の栄養分がとられてしまい、成長の妨げになります。このように、お米たちの“健康管理”にとにかく膨大な手間がかかり、「農薬」や「化学肥料」、「除草剤」が、如何に便利なものであるかを痛感しました。
自然栽培を始めてから、“お米を育てる”というよりも“お米が育つ環境を作る”という感覚に変わりました。お米たちが自然の恵みを享受ができるように育つ環境を作ること。そのためには自然と調和をする事が必然となり、最後は「想い」だけです。そして、無事に収穫を迎えるまでに成長してくれたら、とにかく「感謝」する。自分自身の働き方・生き方も、「こう変えた方が良い」・・と自然からのメッセージを感じました。

田んぼは毎年やり方を変えて、出来上がったお米の成分を分析したり、自分専用の農機具を作ったり、いろんなアプローチをしてきて、ようやく確立してきたと思います。おかげさまで健康志向の高いお客さまを中心に、全国からご発注をいただけるようになりました。「有機栽培」や「自然栽培」といったワードで、お客さまの方から私たちを探していただき、リピーターになってくださる方が多いことは、とても嬉しいことです。

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青い空 広い大地 一粒の愛。

これは、桧山農場を代表するオリジナルの米袋に書いてある妻の書です。天気の良いある日、朝の仕事を終えたあと、二人でお昼ご飯を食べているときに考えました。「北海道の青く広い空と、豊かな大地に感謝しながら、一粒一粒がすべての人たちに愛を分け与えていただける」という想いを表しています。

農業を始めて約40年が経ちますが、農業は1年に一度だけ経験を積める貴重な仕事です。これまでにまだ40回しかお米を作れていない中、確実な方法なんていうものはありません。これからもお米たちが、健康的に成長できるよう、夫婦でやれることをすべてやって行きたいと思います。

<檜山 由美さん :農家の妻・書家として>
夫(雅一さん)の農業を手伝いながら、書家としての活動をしています。
夫が手掛ける「自然栽培」は、農業の中でも多くの時間と手間暇が必要ですが、私は夫の自然栽培に賭ける想いを尊敬していますし、夫も書家としての私の活動を応援してくれているため、これからも農家の妻として、また書家として、両方の活動を続けて行きたいと思います。

書道を始めたきっかけは、小学校3年生のとき。普通の家庭によくある話ですが、「きれいな字を書けるように」と母親が奨めてくれて近所の書道教室に入りました。当時は、「書家になりたい!」という想いはまったくなかったのですが、字を書くことは好きで、書道もなんとなく続けていました。進学して、しばらく書道から離れた時期があったのですが、就職した会社で熨斗紙に手書きの書を書く機会があり、その書を気に入ってもらったことがきっかけで、筆に触れる機会が徐々に増えて行きました。
結婚後、何か書に触れられることを始めたい!と強く思い、「インテリア装書」というものを習い始めました。そこでは「字」だけでなく、「色」や額装する事も習い、自由な形の作品を作ることを教わり、カラーコーディネーターの資格もあったのでこれは自分のやりたかったことと近い!と感じました.影響を受けた書道家は特にいなかったのですが、プロで活躍している皆さんに共通しているのは、とにかく「自由」であることだと思います。私の感じる「書の魅力」もまさにこの「自由」という言葉に集約されていて、自分の想いを表現できること、またいつ誰が書いても、同じものは一つとない、完成形というものが存在しない奥深さに魅力を感じています。

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書いていくうちに心が整理されていく。

それと、文字を書いているときの集中力が大好きです。一つの字でも、太い・細い・長い・短い・優しい・力強いなど、表現の仕方は無限にあって、その中でどう強弱をつけるのか?自分が書きたい書のイメージはどのようなものか?何度も書いていくうちに、心がだんだんと整理されていく感覚です。出来上がった書には、各部分でどうしてその形になったのか、その理由が自分の中できちんと理解できています。こちらの「海月(くらげ)」という作品では、この字に対して自分が持つイメージを考え、自分なりにどう崩していくか?どう表現したら楽しいか?そんなことを自問自答しながら何枚も書いて、最終的にこの書が答えとなりました。

書家としての名前を、「由芽(ゆめ)」と決めました。「由」の字は自分の名前の一部でもあり、漢字の意味として「よりどころ/周囲が安心していられる場所」という意味があります。「芽」は夫の農業にも当てはまる字です。「あらゆるものを生み出す可能性がある芽を持ち、周りの人のよりどころとなれるように」という想いを込めています。
今は「青い空 広い大地 一粒の愛」や、桧山農場のロゴの「Riz(※フランス語で「お米」の意味)」のように夫の農業に関するデザインや、インテリアとして飾る書の作成のお仕事を、農家の手伝いと子育てをしながら取り組んでいます。農業と子育てを理由にすると何もできなくなってしまうので、定期的に作品を出展することを決め、そこに向けた時間を夫と協力して作るようにしています。
これからも、世の中にある芸術性・デザイン性の高いもの、優れた作品に多く触れて、書家として活動の幅を広げて行きたいと思います。

<雅一さん>
春に種を植えて、秋に実がなる保証はどこにもありません。
大切なのは、黄金色の稲穂の姿をしっかりイメージして、
自然と共に一歩一歩前に進むことだと思います。

<由美さん>
自分の想いを表現できる方法は、無限にあります。
答えに辿りつくまで、何度でも書き続けて行きたいと思います。

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