更新日:2017年09月11日

Japan Vision Vol.77 北海道札幌市
鞄職人 くさかカバン店代表
日下功二さん

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北海道札幌市に古くから続く狸小路の八丁目にある、静かで風情ある佇まいの鞄工房を併設する「くさかカバン店」代表:日下功二(くさか こうじ)さんのメッセージをご紹介します。
くさかカバン店では、“永く愛用してもらえる鞄・革小物” “自分たちが使いたい鞄・自分たちが好きなあの人に使ってもらいたい鞄”というイメージを大切に、質の高い素材を日下さん自ら仕立てる北海道発の革製品ブランド「日下公司」と、日下さんが「その魅力を伝えたい」と感じる、札幌と縁のある作家や職人の革製品や雑貨を取り揃えています。
くさかカバン店は日下さんと、もともと靴の企画デザインの仕事をしていた妻の弘子さんご夫婦で運営されており、「日下公司」の工房を併設しているため、店舗に来るお客さまは、お二人が丁寧に革製品を仕立てていく様子を眺めながら、さまざまな革製品を手に取って、その温かみのある手ざわりと質感を確かめることができます。
地元北海道だけでなく、全国に多くのファンを持つ「日下公司」。そして革製品の愛用者が足しげく通う「くさかカバン店」の魅力を、日下さんのメッセージを通して、皆さまもぜひ実感してください。

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大切な人に永く使ってほしい。そんな想いを込めて作っています。

流行を追うのではなく、時が流れても普遍的であり続けるもの、使い手に寄り添うパートナーとなる製品、そういったものを目指して、日々、鞄を仕立てています。革製品作りの魅力は、すべて工程が自分の手で完結することです。特殊金具など自分の手に負えないものはその道のプロにお願いすることもありますが、ほぼすべての工程を自身の手の中で完結できることが、この仕事の魅力です。
製品に対するアプローチの仕方は、作るジャンルや目的などによって変わりますが、まず頭の中で思い描いてそれを絵にすることから始めます。「描いた形がデザインとして美しいか?」「製品として使いやすいか?」「使い手にとって不都合なことはないか?」「永く使っても飽きが来ないか?」など、さまざまな角度から評価し、すべてに「Yes!」となった段階で使う素材や作り方の手順など、具体的にどうやって形にしていくかを考えます。そして実際に自分たちで使ってみて、トライアンドエラーを繰り返し納得がいった後やっと製品化します。

素材は牛革を中心に、作る製品のジャンルや形によってそれぞれ最適な素材を選びます。幅広い層のお客さまに使っていただきたいので、製品の種類やパターンは限定していません。日々の生活の中で、私たち自身が使いたい・作りたいと思ったもの、逆にお客さまのご要望やご意見から必要と感じたものを作ることにしています。お客さまの年代はさまざまですが、製品は相応に高額なため、初めは名刺入れやお財布など小物から入り、お気に召されて使い慣れていただいた方が、鞄など大きいものをご購入されます。そんな風にご愛用いただく様子を見るのはとても嬉しいことです。

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いつも夫婦で対話しながら作っています。

妻(弘子さん)とは、大学卒業後に通った靴の職業訓練校で知り合いました。くさかカバン店の創業当初から今のように椅子を並べて一緒に作っています。いつでも夫婦で「企画会議」ができること、また構想した考えを突き詰めたり、煮詰めるプロセスを常に持てることは、夫婦で仕事をしているメリットではないでしょうか。私たちの強みと言えるかもしれません。お互いをライバルとは考えていませんが、どちらも妥協をしないタイプなので、どちらかが安易な考えや妥協に陥りそうになると、相方が気づかせてくれる。普通の会社員同士や友達同士だと、見逃してしまうようなことにも夫婦だからこそ気づけると思います。

お互いに仕事が好きだから、休みはあまり取りません。二人とも好きなことをやっているので「オフ」や「息抜き」という考えがなく、気がついたら1ケ月間まるまる休んでいないこともありました(笑)。仕事以外でお互いに楽しみにしていることは、「美味しいものを食べること」と「きれいなものを見ること」です。夫婦での恒例行事は「ハスカップ狩り」(※ハスカップは北海道の果物。やわらかくて美味しいですが、日持ちがしないため“狩り”に行かないと食べられないのです)と、ウニの時期に、余市で新鮮なウニとニッカのウィスキーを楽しむことなどです。

それ以外の時間は、二人で革の製品作りをしていたい、それが好きだし楽しいのです。
どういう人のことを「プロの鞄職人」と言えるのか明確な定義はありませんが、自分の感覚では革を心から好きになって、作ることに没頭して、密度の濃い多くの時間をカバンに捧げることだと思います。

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「永く使う」を考えると、自然とシンプルになる。

日下公司の鞄は、「時が過ぎても陳腐化しない」ことをモットーにしています。製品ごとにマイナーチェンジはあるにせよ、もともと鞄は機能的にシンプルなため、ベースにある考え方、デザイン、使いやすさは普遍的であり且つ、シンプルであるべきだと思います。
日下公司を立ち上げた当初、「オーダーメイド」のご依頼を受けていたことがあったのですが、オーダーメイドでご依頼されるお客さまは、「専用のポケット」など、ご自分のオリジナルのパーツを付けたがる方が多くいらっしゃいました。例えば携帯電話や、小型の電子手帳などIT機器専用の外ポケットです。携帯電話は機種がどんどん変わり、その当時には今の主流である「スマートフォン」のようなものを想像している人は誰もいませんでした。携帯電話だけでなく、新しいモノは常に形を変えていくため、1年~2年のサイクルであっという間に「自分専用のポケット」が不要なものになってしまうのです。こうした変化への対応はもちろん可能ですし、10年以上実店舗・ウェブを通して「フルオーダー」を手掛けたことで、多くの気づきがありました。しかし、「永く使っていただく」という日下公司のコンセプトとは少し合わないと感じ、今ではすべて私たちからお客さまに提案するスタンスを取っています。
いま作っているこちらの「ミュージックケース」も、英国で百年以上も前から音楽学校の生徒が使ってきた形で、使う用途は「楽譜入れ」です。日下公司ではこのミュージックケースを創業当初から作り続けていますが、ベースにあるデザインや用途は変えず、変えるべき部分だけを変えて最適な形にアップデートして行く。他の製品にしても同じで、「定番を進化させる」ことが重要だと考えています。

1995年に工房を立ち上げ早い段階からウェブサイトを開設し、私たちのコンセプトや製品の紹介、お客さまとのコミュニケーション、在庫のある製品については販売窓口としても活用しています。しかし、オーダーの受注を行うのはあくまでも店頭のみです。革製品のように、ひとつひとつ色味や風合いに差が生じるものを“手作り”で作っている以上、実際に手に取って感じてもらわなければ伝わらないことが多いと感じるからです。直接お店で見ていただき、触れていただき、会話をする。お客さまとのこの関係を今後も大切にしていきたいと思います。

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日下公司を続けていくために。

くさかカバン店では、鞄作りの「教室」を開いています。参加してくださる方は、若い世代から年配の方までさまざまで、また、目的もプロになりたい方もいれば、趣味で鞄を作りたいという方もいらっしゃいます。後継者の育成を考えたときにこの教室も一つの手段ではありますが、しっかりとした品質の革製品を作れるようになれば、最近では売るための手段もたくさんあるため、独立はしやすい状況かも知れません。大切なのは、私たち革職人、そしてブランドや製品がお客さまにとってどんな存在であるべきかを考え、それを確立することです。

「自分にとって大切な人に、永く使ってもらえるような製品を作る。」

こうした想いや姿勢に共感してくれるメンバーといっしょに仕事を作り、革職人の仕事に携われる人を増やしていくことも一つの使命と考え、これからも永く使ってもらえる製品を作り続けて行きます。

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