更新日:2018年03月19日

Japan Vision Vol.100|地域の未来を支える人 石川県輪島市
輪島塗 しおやす漆器工房 代表取締役
塩安 眞一さん

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第100回目となる今日は、安政五年(1858年)に輪島塗の“塗師”として独立以来160年にわたり、輪島市が世界に誇る伝統的工芸品「輪島塗」の製造・販売を手掛け、初代から受け継がれてきた古き良き輪島塗・そして現代の生活様式にあう新しい輪島塗の両方を磨き続ける、「しおやす漆器工房」代表:塩安 眞一(しおやす しんいち)さんのメッセージをご紹介します。
輪島塗の起源は明らかにされていませんが、現在の輪島塗に使われている珪藻土(けいそうど)が、輪島周辺で出土した中世の漆器にも含まれていたことなどから、室町時代ごろといわれています。輪島の地で漆器作りが発展した背景には、アテ・ケヤキ・ウルシ・輪島地の粉など、漆器の材料が豊富にあったことや気候が漆器作りに適していたこと、また古くから日本海航路の寄港地として材料や製品の運搬に便利だったことなどが挙げられます。それとともに、漆器作りに携わってきた多くの人たちが、品質に誇りを持ち、技術を磨き上げてきたことが最大の理由であると、塩安さんは言います。

輪島塗の製造工程は、大きく「木地」「塗り」「加飾」に分かれ、「塗り」だけでも百以上の緻密な手数を経て、完成までに半年から数年の時間を要します。国指定の重要無形文化財団体指定を受けている「輪島塗」の技術と品質を、現在に伝える匠のメッセージ。皆さまもぜひご一読ください。

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丈夫さと美しさを両立させた漆器。それが「輪島塗」。

輪島塗の特徴といえば、その名が示す通り「塗り」です。「塗り」の工程は大きく「下地」「中塗り」「上塗り」の3工程に分かれますが、どの工程にも非常に緻密(ちみつ)な技術と手数を要します。中でも微生物の化石からなる珪藻土を水で練って素焼きし、細かく砕いたもの(輪島地の粉)を漆に混ぜて塗る「下地」が輪島塗の最大の特徴です。
「下地」は、ケヤキ・トチ・アテ・ヒノキ・キリなどの材料を器の形に仕上げた木地に布を着せ、地の粉を混ぜた漆を何層にもわたって塗布して丈夫にし、形を整える事を目的としていますが、この工程だけでも約3~4ヵ月を要します。この最初の工程である「下地」が、輪島塗の丈夫さと美しさの基礎となります。
次の「中塗り」では、下地を終えたものを水研ぎして、黒めた漆を塗り、表面を滑らかにすることを目的に行います。「上塗り」の準備工程に位置付けられ、「中塗り」が終わるとようやく「塗りもの」らしい姿になります。

そして塗りの最終段階である「上塗り」へと移ります。
この工程では“ほこり”を極端に嫌い、また最もデリケートな湿度管理が必要であり、親方といえども勝手に「上塗り部屋」に入ることは許されません。国産で質の高い漆を、均等に・丁寧に・分厚く塗り上げることで、無地の状態の「輪島塗」が完成します。漆がまんべんなく、均等な厚さで、中までしっかり乾くように5分に一度180℃回転させながら、ゆっくりと仕上げていきます。

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輪島塗の全工程をプロデュースするのが「塗師屋」の仕事。

輪島塗の製造工程は昔から分業で行われていて、大きく「木地」「塗り」「加飾」に分かれます。どの工程も欠かすことが出来ない重要なものですが、すべての工程を管理・調整し、「輪島塗」の完成・販売・納品までをプロデュースするのが我々「塗師屋(ぬしや)」の仕事です。
しおやす漆器工房で扱う「木地」も、木地専門のパートナーにオリジナルの形で作ってもらっていて、主に「翌檜(あすなろ)」や「欅(けやき)」を使います。「木地固め(原木の乾燥)」からはじまり、「形取り」「木地磨き(やすりがけ)」まで、木地が完成するまで半年間かけて、丁寧に仕上げています。
その木地に「塗り」を施し「無地の輪島塗」に仕上げ、最終的にどんな様相の輪島塗にするのかを考えて、「加飾」専門の職人に依頼をする、というわけです。
「加飾」を専門でやっているパートナーは、個人の職人が多く、輪島市内に120軒ほどあります。また輪島塗の「加飾」には、「蒔絵(まきえ)」と「沈金(ちんきん)」という2つの技法があり、それぞれ得意とする職人にお願いしています。
 
★蒔絵技法
漆工芸技法の1つで、漆器の表面に漆で絵や文様・文字などを描き、それが乾かないうちに金や銀などの金属粉を「蒔く」ことで器面に定着させる技法です。

★沈金技法
漆面に対してノミ(刃物)で文様を彫り、この痕に金箔、金粉を埋め込むことで模様を描く技法です。金箔や、金粉の代わりに顔料を埋め込む場合もあります。

仕上がった時の風合いはそれぞれ個性が光り、加飾にかかる時間もさまざまですが、「沈金」はノミで彫るため「一発勝負」です。両技法ともに、テーブルや間仕切りなどの大きなものや、複雑な模様を描く場合は、仕上がりまで数年かかる場合もあります。

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「輪島塗」の技術の修業には最低10年。
伝統的な技法を追求することで、必ず新しい世界がみえてくる。

輪島塗の品質を決める「塗り」を完璧に習得するまでには、やはり最低10年間はかかります。はじめは「下地」からスタートし、それをマスターすると「中塗り」。そして最後に「上塗り」を任されて、すべての工程を完璧に習得すると、職人として最高峰となります。「塗り」の工程も基本は分業であるものの、うちではすべての工程を覚えてもらうように段階を踏んでもらいます。
輪島塗は、とても高価な工芸品ですので、それを作る職人が一つひとつの工程に時間をかけて、しっかりと経験を積み、輪島塗本来の丈夫さ・美しさを次の世代へと継いでいく必要があると考えるからです。また、伝統的な技法を深く追求することで、必ず新しくみえてくる世界があります。輪島塗はあくまでも「工芸品」であり、「芸術品」ではないため、生活の中で実用性のあるものでなければなりません。輪島塗の技術を活かして、現在の生活様式に合った新しい形を見つけていくことも大切にしています。

「輪島塗」を木製品の温もりと、現代的な美しさを兼ね備えた素材としてとらえ、アクセサリーやエレキギター、スピーカーなど今までなかった製品を作り、海外のデザイナーとの共同制作による「モノづくり」も進めています。例えば、「輪島塗のスピーカー」は、“木の持つ心地よい音響と、漆塗りの美しさを兼ね備えたスピーカー”を目指して開発しました。音の振動を上手く吸収して心地よい響きに変える柔らかい木材をスピーカーの内側に使用し、外側を輪島塗の風合いと和的な様相に仕上げています。

こうした新しい取り組みを積極的に行うことで、輪島塗の技術が多くの人から注目され、これまでになかったオーダーをいただく機会も増えてきていますし、若い方が輪島塗の職人を目指すきっかけにもなっていると思います。受け継がれてきた輪島塗の技法をしっかり継承しながら、今後も新しい挑戦を続けていきたいと思います。


伝統的な技法は、基本的にやり方が決まっています。
ただ、それを深く追求することで必ず新しい世界がみえてきます。
若い方には、そういった感性を磨きながら、新しいものをどんどん生み出してほしいと思います。

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