更新日:2018年06月11日

Japan Vision Vol.111|地域の未来を支える人 徳島県三好市池田町生まれ
映画監督・映画活動家
蔦 哲一朗さん

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徳島県三好市の祖谷(いや)地方で育ち、「人と自然の共存」をテーマにさまざまな作品を撮り続けている、映画監督:蔦 哲一朗(つた てついちろう)さんのメッセージをご紹介します。

現在も手付かずの自然が残る、吉野川畔の山間の町「池田町」で、高校時代まで過ごした蔦さんは、「田舎暮らし」が物事の考え方や価値観、生活の基礎を作ってくれたと言います。小中高とサッカーに明け暮れたのち、「映像」の道を志して東京の大学に進学。スタジオジブリの作品やNHKのドキュメンタリー番組など、「自然」に寄り添った独特の世界観を持つ作品に強く魅かれ、映画監督になることを決意しました。
2013年に発表した蔦さんの代表作の一つ、「祖谷物語 -おくのひと-」は、蔦さんがもっとも大切にしているテーマ「人と自然の共存」を、自らの故郷「祖谷」を舞台にして描いた完全オリジナル作品で、「東京国際映画祭:アジアの未来部門 / スペシャル・メンション」、「香港国際映画祭:ヤングシネマ・コンペティション部門 / 審査員特別賞」をはじめ、数多くの賞を受賞しました。
驚くことに、蔦さんの作品はすべて「フィルム」で撮影されており、デジタルに無いフィルムならではの温かみのある映像と表現力を大切にしています。また、蔦さんが手掛ける作品は、「人と自然の共存」をはじめ、現代社会のさまざまな事象に対する問題提起と、観る人に考える機会を提供することを趣旨としています。そんな蔦さんの映画に対する想い、故郷への想い、そして今後の展望についてお話いただきました。

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“映画監督になる”ことを決意した大学時代

高校を卒業する前から、サッカーの次に好きだった「映像」関係の道に進むことを決めていて、東京にある映像関係の大学に進学しました。自然豊かな場所で育った僕には、電気や水の使い方、食事の摂り方まで、その多くを自然から得る“田舎暮らし”が生活のベースになっていました。東京で育った同級生たちとの感覚の違いには正直苦労しましたが、ちょうどその頃から、世の中が「エコ/健康」を意識するようになり、東京での暮らしにも徐々に慣れて行きました。
一口に「映像の道を志す」と言っても、映画やアニメ、TVドラマ・ドキュメンタリーなどその種類はさまざまですが、「映画監督になろう!」と決めたのは、大学3年の時です。大学で学んでいた、モノクロ・自家現像の手法で、現代社会の問題を昔っぽい作風で突きつけるということに挑戦した、初の自主制作映画「夢の島」(※1:東京工芸大学の映画サークル“ニコニコフィルム”の卒業制作/2007年撮影)を撮ることを決めました。

早稲田松竹時代の想い出
大学卒業後も、自費で映画を制作するため、また東京での生活を続けるために、高田馬場にある「早稲田松竹」で働かせてもらいました。映画館の運営に関するさまざまな仕事をしながら、「映写」を担当させてもらえたことは、僕にとって何よりも有難かったです。早稲田松竹では、毎週2本ずつ上映作品が変わるのですが、映写担当は全ての作品を必ず上映前にチェックするため、僕の担当だけでも4年間で100本以上の映画を観ることが出来ました。しかも夜中に映画館を貸切りで。(笑) 他の映画館の関係者から招待状をいただける機会も多く、毎年かなりのペースで映画を観る機会があり、とても勉強になりました。僕にとってやりたいことと直結している素晴らしい仕事です。
歴代の名作、旧作から新作まで、さまざまな作品を見ている中で、「フィルムの作品」がますます好きになりました。デジタルでは決して出せない、白と黒の表現力や映像の温かさがフィルムにはあると思います。そこを自分なりに追求して行きたくて、いまでもずっとフィルムで撮り続けています。

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「祖谷物語 -おくのひと-」の誕生

休みに故郷へ帰った時、改めて故郷「祖谷」の自然の素晴らしさを実感したことがきっかけです。それと同時に「人と自然の共存」という、人間に突き付けられた永遠のテーマとも言えるさまざまな問題や、人々の葛藤が、故郷「祖谷」で起きていることと重なり、ここであればそれが描けるのではないか?と気付きました。豊かな自然や、茅葺屋根の落合集落など、昔ながらの姿を大切に遺したいと考える反面、観光開発を進めて町の経済を発展させたいという考え方もあります。「動物との共存」を考える反面、祖谷の山に多く生息する鹿や猪が、農作物など人間の生活に被害を与えている現実もあります。さらに、地元で生活する人達と、観光で訪れる人達との意識の違いなど、正解を見出すことが難しいさまざまな問題が祖谷にはあるのです。自分が感じている、「祖谷の自然の素晴らしさ」とともに、そうした課題を見た人にも感じてもらい、また考える機会を提供したいと思い、「祖谷物語 -おくのひと-」(※2)の脚本を1から作りました。
物語の主人公は、人里離れた山奥・美しくも厳しい祖谷の自然の中で、ひっそりと昔ながらの生活を続けるお爺(田中 泯さん)と、女子高生・春奈(武田梨奈さん)です。電気もガスもなく、物もほとんどない質素な生活を送る2人ですが、春奈の成長とともに訪れる変化、また2人を取り巻く周囲のさまざまな変化を通じて、祖谷が持つ課題・人々の葛藤などを描いています。
出展した各国の映画祭や、映画関係者の方からは、最後までフィルムにこだわり撮りきったことと、明確な答えのない課題に切り込んだ、オリジナルのストーリーをご評価いただきました。地元、祖谷の皆さまからは、「とにかく画がきれい!」「地元にもこんな風景があったのか!」と、祖谷の美しさを改めて再認識できたことにご評価をいただきました。僕も改めて、祖谷の自然の素晴らしさ・美しさを実感しましたので、ぜひ多くの方に訪れていただきたいです。

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祖谷の課題から生まれた「DIYA」プロジェクト

祖谷物語を通じて出会った猟師さんから「鹿」の問題について聞き、驚きました。鹿や猪による農作物被害は祖谷だけでなく、日本全国で大きな問題となっており、年間で実に50万頭以上の鹿が駆除されているのだそうです。また、駆除された鹿が十分に活用されていないことも知り、いたたまれない気持ちになりました。一部では食用への活用が進められているものの、駆除された鹿はそのまま山に放置されていることが多いのだそうです。
「DIYA」プロジェクト(※3)は、わたしたちにとって身近な問題である「鳥獣被害」の現実を多くの方に知っていただくこと、また駆除された鹿を供養するために、革製品として活かすことを目的としています。徳島県でやむなく駆除された鹿を猟師さんから譲り受け、徳島の特産でもある本藍で染めて、その“青い鹿革”から財布や小物などを作って、発信しています。プロジェクトの名前の由来は「鹿=Deer(ディア)+ 祖谷(いや)=DIYA」です。資金はクラウドファンディングで集め、おかげさまで200名近い方にご賛同いただいて無事終了することができました。まだまだ小さい規模ですが、この問題に一石を投じることが出来たと考え、少しずつご賛同いただける方を増やしながら、この動きを全国に拡げて行きたいと思います。

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映画を撮り続けることで、地元に貢献したい。

今後も、「自然」「人と自然の共存」「現代社会におけるさまざまな課題」「理想はどういう形なのか」、そういうことを突き詰めたテーマで映画を作っていきます。現状に対する批判や無責任な理想を掲げるのではなく、さまざまな社会課題に対する問題提起。見た人もいっしょに考えていただけるような作品を追い求めていきたいと思います。
それは興行としての成功を目指す商業映画ではないため、ある意味プロとは言えないのかも知れませんが、「映画人」として地元や社会に貢献できる活動をしていきたいです。現在、徳島県でも2つの映画祭が始まっていて、ありがたいことに両方に関わらせていただいています。夢は世界中の素晴らしい作品を、徳島の映画祭に集めることです。その夢の実現のために、これからも社会的意義を持つ作品を撮り続けていきたいと思います。





「夢の島」公式サイト (※1)
「祖谷物語 -おくのひと-」 オフィシャルサイト (※2)
「DIYAプロジェクト」 公式サイト (※3)

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