更新日:2018年07月23日

Japan Vision Vol.116|地域の未来を支える人 香川県高松市
高松琴平電気鉄道株式会社 代表取締役社長
真鍋 康正さん

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1911年(明治44年)の創業以来、香川県で、人々の陸の交通インフラを支えてきた、高松琴平電鉄(通称:ことでん)、代表取締役社長:真鍋 康正(まなべ やすまさ)さんのメッセージをご紹介します。

2011年11月に開業100周年を迎えた「ことでん」は、次の100年に向けて「乗って楽しい」をテーマに選びました。「鉄道会社」という枠に捉われない個性溢れるイベントや、地域の人たちと共創するさまざまな取り組みが支持され、地元香川県だけでなく、多くのファンに愛されています。
そんな「ことでん」ですが、これまでの道のりは決して平たんなものではなく、2001年には経営破綻を経験しています。学生時代を高松市で過ごした真鍋さんも乗客の一人でしたが、友人や地元の方も含めて、当時から「ことでん」に良いイメージを持っている人はほとんどいなかったそうです。経営破綻から見事に息を吹き返し、多くのファンから愛される存在になるまでの道のり、今後の展望についてお話をいただきました。

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高校時代の「ことでん」のイメージは“古くて汚い電車”

私は高松市で生まれ、高校卒業まで地元で過ごしたので、当時の「ことでん」のことはよく覚えています。その頃の「ことでん」に対する率直な印象は「古くて、汚い電車」でした。今考えると、その時すでに創業して80年程経っていたので、車両や駅舎が“古くなる”のは仕方のないことだと思いますが、“汚い”つまり会社としてキレイにしようという意思がないように感じました。さらに、駅員や車掌の態度も横柄でサービスが悪く、ストライキなどもたびたび起きていました。高校生ながらに、「残念な鉄道会社だな」と感じていたし、周囲の人たちもそうだったと思います。
そんな乗客たちの評価が表れたのが、経営破綻した2001年です。「地方鉄道の廃線」と捉えて全国を見渡せば、少子高齢化や地方の過疎化などを背景に、そういったことは他の地域でも起きていましたが、当時の高松市はそのような状況にはありませんでした。また、「鉄道が無くなるかもしれない」となると、ファンや利用している乗客から、「残してほしい!」という声が挙がるものですが、「ことでん」にそのような声があがった様子がありませんでした。地域にも見捨てられた状況です。行政や金融機関は次のオーナーを探すために本当に苦労したと思います。

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父が断行した「ことでん」の改革

そんなとき、なぜか自動車ディーラーをしていた私の父(真鍋 康彦さん)が、「ことでん」の再生を引き受けることになりました。当時の私は大学を卒業後、東京で経営コンサルティング会社に勤務していました。「ことでん」に対する負のイメージが強かったせいか、父の再生計画が成功するイメージを持てずにいましたが、父は周囲の心配を他所に、大胆な改革を行い、業績は徐々に回復し、黒字化を達成しました。
再生を始めた当初は、決して「戻ってこい」と言わなかった父も、再生が軌道に乗った頃からそのようなことを言うようになりました。「ことでん」は交通インフラとはいえ、当然ながら利益を出さないと存続することはできません。人口減少が見込まれる“ゼロ成長”の香川県で、どのようにビジネスとして成立させるのか?そんなことに挑戦できる機会はとても貴重ではないか?と考え、「ことでん」の再生に参加する決意をしました。

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“お客さまの声”を聞き、共有し、応える。

再生に際して、父と私がもっとも注力したのは「お客さまの声」に耳を傾けることです。「お客さまの声」を徹底的に聞き、そのすべてを社員に共有し、すべての回答を公開しました。サービス業では当たり前の事なのですが、長い歴史にあぐらをかいていた「ことでん」には、まったく出来ていませんでした。そのため、「お客さまの声」を直視せざるを得ない仕組みを作りました。
この方針は「聞く姿勢」と「応える姿勢」をお客さまにアピールするだけでなく、社員たちの意識改革にも繋がり、「乗せてやる」という横柄な姿勢から「乗っていただく」という謙虚な姿勢に、徐々に変えていきました。破たん後に去った社員もいましたが、倒産を経験したことで、社員たちが危機感を持てたことが何よりも大きかったです。

そしてもう一つ。内向き思考を外向きに変えることです。地方の鉄道は、独占企業であることが多く、企業努力というものをしなくても売り上げが急激に落ちてしまうような状況は起こらず、どうしても内向きに守ることを考えてしまいがちです。
新しい取り組みをするときに、私たちが大切にしているのが、地元の方といっしょに考え、行動することです。香川県には、さまざまなジャンルで面白い活動をされている方がたくさんいるため、積極的にコラボレーションすることで、新しい発見に繋がり、お客さまもより「ことでん」を好きになってくださいます。
金曜日の夜だけ遅い時間まで電車を走らせたり、商店街の方と相談して、仕事・趣味・グルメ・健康・学び、など多面的な視点で駅ビルの機能やコンテンツを充実させたり、地元のブックカフェと共同で「ことでん文学賞」を企画したり、劇団と一緒に電車のなかの演劇を企画したり、電車とバスとの乗り継ぎ割引を自治体と企画したり、街の暮らしの質を上げるための様々な取り組みを実行しています。しかし「ことでん」が行っていることはすべて、さまざまな「お客さまの声」が起点となっています。

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未来を見つめ、地方の交通インフラを支えていきます。

私が入社した2年後には、100周年という大きな節目があったため、100周年イベント「未来志向のイベント」にしようと、1年かけて準備しました。
企業の周年記念イベントは、創業以来の歴史を回想することから始まるものですが、「ことでん」では一切振り返りませんでした。そもそも一度倒産した会社ですし、お客さまにとっても、我々にとっても、“今後どうなっていくのか”が最も重要だと考えたからです。
「ことでん」に乗っていない人に、どう乗ってもらうか?という視点で考え、地元の女性カメラマンに依頼し、「ことでん写真展」というものを開催しました。「ことでんの走りを支える人」をテーマにした、とても汗くさい写真展で、作品は写真集にもなっています。「大の鉄道好き」で有名なロックバンドのくるりさんを招いたコンサートも開催し、ふだん「ことでん」に乗っていない層も含め、たくさんの方にご来場頂きました。この100周年イベントを機に、「ことでんおんせん」や「工場内でのサーカス」など、鉄道会社らしくないイベントを定期的に開催しています。

これからは、自動運転技術の発達により、お酒を飲んでも車で移動することが容認されたり、高齢者の方でも安心して車に乗れるようになるかもしれません。ドローンなどの技術革新で個人が空を飛んで移動するような時代が来るかもしれません。インターネットのますますの普及で、移動する必要も減ってくるでしょう。
そういう状況ですから、100年先どころか10年先でさえ予測することは不可能です。ただ、絶対に変わらないのが、「リアルに感じられる価値」だと思います。大切な人と会ったり、素敵な景色を見に行ったり、そのリアルに感じられる価値には「移動」が必要です。鉄道やバスといった手段に限定せず、「価値のある移動」を提案し提供し続ける会社であることが、地方の交通インフラを支える、我々の使命だと思います。



■「ことでん100」公式サイト
http://www.kotoden.co.jp/publichtm/kotoden/100th/index.html


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