Japan Vision Vol.133|地域の未来を支える人 秋田県秋田市
硝子工房窯硝 代表 鎌田 祥子さん

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「キルンワーク」と呼ばれる技法を用い、多様な色彩と表現力で、優美な工芸品を生み出しているガラス工芸作家、「硝子工房窯硝(かましょう)」代表:鎌田祥子(かまだ しょうこ)さんのメッセージをご紹介します。
秋田市で生まれ育った鎌田さんは、地元の美術大学でガラス工芸を学び、13年前に地元である秋田市に工房をかまえました。硝子作家としての活動を始めた当初から、「秋田にはまだ“硝子文化”が根付いていない」と感じていたそうですが、この13年間で少しずつ、ガラス工房は増えてきたと言います。
鎌田さんが作る作品は、「吹き硝子」にはない直線的な模様と平らなフォルム、そして暖かみのある色合いが特長です。 飾るための作品ではなく、日々の生活の中で使っていただける作品を常に意識しているという鎌田さんは、ごく普通のお料理をより美味しく、そして楽しく演出することも、硝子工芸品の役割と捉えています♪ そんな鎌田さんのメッセージを、「キルンワーク」技法が生み出す硝子工芸品の魅力とともに、皆さまもぜひご覧ください。

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コツコツ作り上げる「キルンワーク」の魅力

小さい頃からジャンルを問わず、モノを作ることが大好きでした。工芸品に興味を持ったのは大学に進学する時です。高校に通う道の途中に美術工芸の短大があり、何度か見学させていただいているうちに「面白そう!」と興味を持って入学しました。はじめは「陶芸」を学ぶつもりだったのですが、綺麗な硝子作品の魅力に触れて、「硝子」を専攻しました。
私にとって硝子は、素材自体に魅力がある素敵な存在です。それまで見たことがある硝子工芸品は、透明で涼しげなものが多かったのですが、短大に入って初めて見学した吹き硝子の制作現場は、1000℃を超える熱で真っ赤に溶けた硝子を、先輩たちが汗だくになりながら制作していくというものでした。完成品の涼し気な容姿と、溶けている硝子のギャップには、「おおっ!」と、思わず声が出てしまうような衝撃を受けたことを覚えています。
「吹き硝子」は、熱くなった硝子が冷める前に早業で形を整えて行く技法で、溶けた硝子の美しさをそのままに、綺麗な作品が仕上がっていくことが特長です。一方「キルンワーク技法」は、窯(キルン)の中で硝子をゆっくり溶かし、サイズや色彩を考えながら、コツコツと作品を仕上げいく技法です。そのアプローチの仕方が自分に合っていると感じたこと、また、吹き硝子にはない直線的なデザインにも魅力を感じて、「キルンワーク技法」を追求して行くことを決めました。私の中で、「吹き硝子」は“動”の体育会系!キルンワークは“静”の文化系!というイメージです。(笑)

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ゆっくりと硝子工芸品を仕上げる窯

キルンワーク技法の作業工程はまず、完成品をイメージすることから始めます。お皿であれば、使うシーンや用途を想像して、大よその形や色のイメージを何パターンか考え、その中から自分が良いと思ったものを、スケッチやデザインに落としていきます。そのあと、サイズや色を考えながらカットした硝子を並べて、ゆっくりと窯で焼いて行きます。
並べた硝子同士がくっついたら、今度はそれを「型」の上に乗せて焼きます。硝子のなかに色を入れるための素材には、銅と銀の粉や箔を使っています。硝子の間に金属を挟んで焼くと、銅箔は青っぽくなったり、銀の粉を銅に塗って焼くと、黄色になったりと、化学反応でさまざまな色が出てきます。1回焼いて完成するわけではなく、作品によっては何度も窯で焼いて、数日間かけて目指す色や形に仕上げて行くイメージです。
キルンワークのなかにもさまざまな技法があって、いまは「フュージング」と「スランピング」という2つの技法を使っています。「吹き硝子」の温度はおよそ1200℃ですが、溶かしてくっつける「フュージング」では800℃ほどです。また「型」に乗せて型に落とし込むように焼く「スランピング」は、大きさによって異なりますが600℃~700℃です。硝子は急激に温度を上げたり下げたりすると、割れてしまう特性があるため、一度焼き始めたら1日~2日間は窯を開けることができません。窯の蓋を閉じたあとは、想像通りの仕上がりになっているか、ドキドキしながら待つ!という感じです。作品を作るペースは基本的に毎日なので、「窯がかわいそう。」と思ってしまうほどです。(笑)

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日常の中に密接したものを作り続けたい

作品のデザインを考えるアプローチは色々ありますが、生活の中で「使っていただくこと」を前提としていますので、お客さまが「こういうシーンで使いたい!」という場面を想像することを大切にしています。また、自分が見て心が魅かれたものから「この感じいいな」という要素を取り入れたり、日々作品を作っていく中で新たに思い浮かんだものを形にしてみたり、アプローチの仕方は色々です。
例えば、「いはひプレート」はお正月にご家族が集まったシーンを想像して作っています。1枚でも使えて、4枚をつなげて使うこともできます。集まる人数やお料理の種類に合わせて「盛り皿」として出せるようにと考えました。「mado」というお皿は、「“欄窓”ってかっこいい!」と思ったところからヒントを得て、見たままの要素をデザインとして取り入れたお皿です。
ギャラリーに展示している作品をご覧になったお客さまからは、「これはどんなお料理に使うお皿?」「飾っておけばいいの?」と聞かれることもありますが、普段使いをしてほしいので、どんなシーンを想像して作ったかをお伝えするようにしています。また、日々の生活の中に「硝子」が入ってくることで、たとえば「お料理がより美味しそうに見えたり、楽しくなりますよ」とお伝えすると、「なるほど~」って言っていただけます。「こんなお皿に盛るようなお料理は、私に作れない」なんて言われるお客さまもいらっしゃいますが、むしろいつもの作るお料理にこそ使っていただきたいです。
硝子工芸品の面白さは“硝子と話し合う”というか、お互いにどのラインがいいかなって見極めながら、自分の想像したものを作っていくところにあります。こっちが無理なアプローチをすれば硝子は割れたりうまくいかなかったりするので、失敗した時は「(硝子の)機嫌を損ねたかな?」と反省して、またアプローチの仕方を変えてみます。いつもそういう「会話」を繰り返している感覚です。

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“続けること”で根付いてきた秋田のガラス文化

私が通った短大のような硝子工芸を学べる学校は当時全国的にも少なく、せっかく秋田にそんな学校があるのに「硝子文化が根付いていない」と感じていました。また、短大や大学を卒業したあとの就職先も県外になってしまう場合が多いことも、その要因であると思いました。
「硝子の魅力を、もっと秋田の人たちに知って欲しい」という想いが、私が工房を始めたきっかけです。はじめは何千円もするお皿に驚かれる方もいらっしゃいましたが、ご興味を持っていただいたお客さまに、キルンワーク技法の内容や、ひとつひとつの作品の背景、制作工程などをお伝えしてきたことで、少しずつみなさんに認識いただけてきたと思います。また、ゆるやかにですけど秋田県内に硝子工房も増えてきて、今では秋田市が運営する大きな硝子工房もできました。後進を育てながら秋田に硝子工芸を根付かせようという素晴らしい取り組みだと思います。
私にできることは、これからも硝子工芸作家として作品を作り続けていくことです。さまざまな作品を発信して、秋田の硝子文化を、もっと多くの方に知っていただきたいです。

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