更新日:2019年01月21日

Japan Vision Vol.136|地域の未来を支える人 新潟県三条市
真宗大谷派 三条教区・三条別院 主任列座・書記
斎木 浩一郎

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地域の未来を応援する「Japan Vision」。第136回目となる今日は、浄土真宗の宗派のひとつ「真宗大谷派」三条教区の寺院「三条別院」で、主任列座・書記を務める斎木 浩一郎(さいき こういちろう)さんのメッセージをご紹介します。
斎木さんの父:信太郎さんは、40歳にしてサラリーマンから住職に転身した異色のご経歴の持ち主です。そんな父の影響もあり、斎木さんは大学・大学院と東洋哲学を学び、卒業後に本格的に仏教の道を志しました。「三条別院」は全国に52ある、東本願寺の別院のひとつで、新潟県中越・下越・佐渡地方まで、450におよぶ寺院がある「三条教区」の中心となる寺院です。雄大な木造建築の本堂と広大な境内で、古くから三条のランドマーク的存在として人々に親しまれてきました。
「三条別院」には、36歳の若さで主任列座・書記を務める斎木さんを中心に、若い列座が多く活躍しています。そして、親鸞聖人の命日を偲び、毎年11月に行われる法要「お取り越し報恩講」のほか、広い境内を生かしたフリーマーケット「御坊市」、立派で荘厳な本堂を舞台にオペラを行う「あかりコンサート」など、三条市に住む人だけでなく、誰でも参加できる行事がいくつも開催されているのです。そうした取り組みは、別院の周りで営んでいる商店街や、参道「本寺小路」も巻き込んで盛り上がりを見せています。
浄土真宗の宗祖、親鸞聖人の教えを布教するだけではなく、地域の人々の暮らしを豊かにする活動にも積極的に取り組んでいる斎木さんのメッセージを、ぜひご覧ください。

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人は「自分中心の考え」に囚われてしまっている
そのことを学ぶための“修練”

私の父はお寺の生まれではなく、全国各地を転勤しながらキャリアを重ねる営業マンでした。そんなサラリーマン家庭に育った私は、札幌で生まれ、新潟に来たのは小学校6年生の時です。父が40歳で転職を考えていた頃、三条で住職を務めていた親戚が結核を患い、後継ぎがいなかったこともあり、なんと父が跡を引き継ぐことになりました。「お寺の住職」とは、全く別の仕事をしていたので右も左もわからずに、新人の頃には「三条別院」に来ていろいろと教えてもらったそうです(笑)。
一般的にお寺に生まれた子は仏教系の大学に通います。自分の志望した大学に行けずに子どもが反発することもよくあるそうですが、私は自分の好きな道を選べる環境でした。私自身、お寺で生まれ育ったわけではないため、お寺に対する反発心はなく、仏教も学ぶことができた早稲田大学の文学部東洋哲学専修に通い、大学院まで進みました。卒業して新潟に帰る際に資格をとり、「三条別院」を志望し、運よく就職することができました。
私の今の「列座」という役職は、毎朝ご本尊の前でのお勤めと、本堂の掃除などのお給仕、本堂を会場とした法話会などが基本です。普通のお寺なら住職がやっていることです。「三条別院」は真宗大谷派の総本山、東本願寺の別院です。東本願寺の出張所のような教務所というものがあり、その教務所長が「輪番」(代表役員)を兼務しています。「列座」は、東本願寺で“修練”を受けたうえで別院に就職した者達です。“修練”では、僧侶としての基本的な作法を学びます。浄土真宗の基本的な教えは「南無阿弥陀仏」であり、「修行」という概念はないため、一般的にイメージされているような、「座禅をして滝に打たれる」などといった「荒行」もありません。“修練”は“聞法”といって、法を聞くことが中心です。
“修練”のなかで印象的なものに、「全文筆記」というものがあります。これは単に法を全文覚え込むためのものではなく、「人間が“自分中心の考え”にいる」ということを認識し、学ぶためのものです。先生のお話を聞いて、聞いた内容を生徒同士で確認し合うのですが、先生の話していることは一つなのに、みんな聞いているところが違うために確認する内容が食い違ってきます。人間は個人個人が、勝手な思い込みで聞きたいように聞いてしまっている、ということを徹底的に知るんです。また、先生と話していて面白かったのは、例えばこちらから、意見や愚痴を言っても、それに対して「良い」とも「悪い」も言わないんです。かといって、なぐさめるわけでもなく、「あぁ、そう思うんですね」くらいしか言わない。すると自分の投げた言葉がそこで止まって、また自分で考えないといけなくなります。そうやって自分中心の考えに自分自身がいたことを学び、実感します。「仏様を信じましょう」という、他の宗教とは違い、人間の本質の見方を学べるような場所になっています。「人間なんてこんなものだ」という開き直りでは決してなく、本当のことを歪めてしまっている自分に気付き、自分自身を見つけていくことに、長い時間を割くのです。

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人の中で生きた“親鸞聖人”の教え

人間は何か問題や苦しいことがあると、他人や環境のせいにしてしまいがちです。仏教の面白いというか、有難いところは、そのような行き詰った時、「すべて自分自身に責任がある」と気付かせてくれることだと思います。仏教はそうして、ずっと自分自身の心を見つめてきました。他人や周囲の環境を変えることは、かなりのエネルギーを使わないとできません。問題がすべて自分にあるというのは、厳しい言葉のように聞こえますが、そこには「自分が変われば、なんとかなるんじゃないか」と思わせてくれるような解放感もあります。厳しいと同時に優しい言葉なのです。
例えば、何気ない日常生活の事柄に当てはめてみると、家のタンスの角にいつも足の小指をぶつけてしまうという話があったとします。その原因は往々にして、自分が急いでいたり、近道をしたがって、通りにくい所を通ろうとしているというものです。自分自身のその癖に気づいて少しだけ大回りをすれば、決してぶつけることはありません。ですが、習慣になってしまっていることや、ぶつけた時の痛みと悔しさから、人は自分ではなくタンスのせいにしてしまうのです。冷静になってみてみると、ぶつけているのは“自分だけ”ということもよくあり、本人はそれにも気づかないものなんです。
浄土真宗が特に良いと感じるのは、親鸞聖人が日本で初めて、「結婚して子供もいたお坊さん」だったというところです。それまでの宗派は比叡山のように山の中で生活していましたが、親鸞聖人は人々のなかで暮らしていました。いま私たちは町の中で生きていて、人の中にいる苦しさがあって、一人きりになりたいと思ってもそれは叶いません。そういう状況に対して、人の中にありながら仏教を築いてきた親鸞聖人の教えは、響くものがあるのではないでしょうか。

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「真ん中」と呼ばれる三条別院
若い人も集まる、この町のランドマーク

三条は県内でも新潟、長岡に次ぐ3番目の町です。現在は新幹線の駅がある燕三条(県央)の方に人が流れていますが、昔は「三条別院」を目指して県内各地から集まった人たちが、飲んで食べて、泊まって町が栄えて行きました。そんな三条のなかでも、「三条別院」は常にその中心的な存在だったと思います。町の中には広い場所が少ないですが、参道の「本寺小路」とその先には商店街があります。その中心にある別院は町の皆さんからいつも「真ん中」と呼ばれ、親しまれてきました。地域活性化を目指すなかで、三条市も「三条別院」をランドマークとして使ってくれています。
そのランドマークとしての役割を果たすために、「三条別院」では一般の方々が参加できるさまざまな行事を開催しています。今年で7回目になる「御坊市」はフリーマーケットやワークショップなどのイベントです。もともとは「別院フォーラム」と言って、20年ほど前から始まりましたが、参詣者が少なくなったため名前を変え、人の集め方も変えました。基本的に実行委員は真宗大谷派の若い僧侶が中心ですが、地方の町を盛り上げようと、みんな危機意識をもって活動しています。雑貨屋さんの方に代表を務めていただき、お店の人たちを中心に呼び掛けてもらうことで大勢の人が集まってくれるようになり、若い女性の参加者も増えました。また、商店街の方々と協力して「超難解スタンプラリー」という企画もやりました。普通のスタンプラリーではなく、スタンプを押してもらうために、何も買わなくてもよいのでとにかく、“商店街の人とコミュニケーションを取る”というルールです。お店の人の質問に答えたらスタンプをもらえたり、本寺小路にはお洒落なバーにも協力してもらい、18歳以上は夜もお店に行ってスタンプを集めないといけないなど。こうしたイベントで商店街を活気付けて行きたいと思います。
また、春休みには本堂に1泊する「子ども奉仕団」というものを開いていて、私が入った頃は20人くらいだったのが、今では3倍~4倍まで増えています。境内にある松葉幼稚園を卒園した子供たちから、地域の小学生たちへと徐々に広がっているのです。書道教室もあって、こちらは年齢関係なく字がうまくなりたい方々が参加しています。「お寺」というと、どこか敷居が高く、気軽に訪れる場所ではないという印象を持たれている方は少なくないと思いますが、私たちはもっと、地域の皆さまにとって身近な存在であるべきと考えています。こうした取り組みを続けてきたことで、徐々に浸透し、同じ取り組みをされているお寺も増えてきているようです。商店街の方などから三条の活性化のために「大人が泊まりがけで参加する行事はできないか」と要望を受けたこともあります。親鸞聖人の命日を偲び、11月に4日間勤められる「お取り越し報恩講」がその役割を果たせるようになることが目標です。

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“お経”は、かっこいい“伝統宗教音楽”

私たち世代の感覚から言うと、東本願寺の声明(大谷声明)は“ものすごくかっこいい日本の伝統宗教音楽”ですし、新潟県で一番素晴らしい声明を聴ける場所がおそらく「三条別院」だと思います。30人くらいの僧侶たちが一斉に大声でお勤めするので、とても迫力があります。そういう正統派の行事においても、本堂の中では胸が熱くなるような法要に出会えるんだということを、多くの方に知っていただきたいです。新潟には「フジロックフェスティバル」のような、一大音楽イベントもありますが、若い方からご年配の方まで、浄土真宗の教えに少しでも興味を持たれた方が、「報恩講行ってみる?」というように身近な存在になれたらと思います。

これからも親鸞聖人の教えを聞きながら、
“人々の中で生きる僧侶”として、
地域の皆さまとさまざまな取り組みをして行きます。

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斎木 浩一郎さん
素敵なメッセージをありがとうございました。

■真宗大谷派 三条教区 三条別院 公式サイト
http://sanjobetsuin.or.jp/

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