Japan Vision Vol.139|地域の未来を支える人たち 新潟県新潟市
はちみつ草野・代表 草野 竜也さん

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地域の未来を応援する「Japan Vision」。第139回目となる今日は、「はちみつ草野」代表・養蜂家:草野 竜也(くさの たつや)さんのメッセージをご紹介します。草野さんは、自然の恵みを最大限に生かす“純国産”“非加熱製法”で仕上げる「生はちみつ」に徹底したこだわりを持っています。
健康食材として多くの人に重宝されるはちみつですが、現在、消費者に届くはちみつの9割以上は外国産が占めるといわれていいます。そんななか草野さんは、地元である新潟市で数百万匹ものミツバチを丁寧に育て、また、お客さまに四季のコントラストと花の種類によって異なるはちみつの色・味・香りを楽しんで欲しい!という想いから、新潟に咲く6種類の美しい花々を集めて採蜜しています。なかでもアカシアの花から採れるはちみつは、日本海に面したアカシアと松しかない場所で収穫した純度の高い希少品だそうです。
養蜂を始めた当初、ミツバチを育てることに“とても苦戦した”という草野さんですが、ある時ミツバチの生活サイクルに、人間が必要以上に介入することは逆効果であることに気づきました。そのことをきっかけに、ミツバチの健全な育成方法を掴み、改めて養蜂家という仕事の魅力にも気づいたそうです。ミツバチは、「人のいのちをつなぐ担い手」であり、養蜂家の仕事を、「自然の循環を支える仕事」と捉えている草野さんのメッセージ、皆さまもぜひご覧ください。

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巣箱で“越冬”し、春に活発に動き出すミツバチの一年。

はちみつの収穫は5月から8月のお盆前くらいまでです。花の咲く時期により収穫期は少しずつ異なりますが、だいたい6月ごろに最盛期を迎えます。養蜂家とミツバチたちの春夏秋冬のサイクルを簡単に説明すると、「春」はミツバチたちが最も活発な季節ですので、花の咲く場所へ連れて行き、たくさん栄養を付けてもらいます。「夏」はミツバチたちの体調を整え、暑さ対策を万全にしながら、女王蜂の産卵サイクルを安定させ、新しいミツバチを増やす時期です。「秋」は冬を超えるための準備の時期、天敵であるオオスズメバチの対策をして、巣箱に冬囲いをかけます。そしてミツバチたちが巣箱の中でジッとして過ごす「冬」は、道具の手入れをしたり、新しい巣箱を作ったりと、春に向けた準備をする時期です。
国内の養蜂所でも地域によって異なりますが、新潟ではミツバチの箱を開けて作業するのは10月いっぱいまでです。ミツバチは気温が下がってくると、卵を産むペースが遅くなり、冬に向けてエサを蓄えるようになるためです。11月~12月にミツバチたちの生活に人間が過剰に干渉してしまうと、冬に向けてせっかく準備しているサイクルを崩すことになるので、敢えて最低限のサポートしかしません。そして冬の準備が終わると、「熊の冬眠」のように、ミツバチたちも巣箱の中から出て来なくなります。巣箱の中でジッとしながら貯め込んだはちみつを少しずつかじり、翌春まで過ごします。「越冬」の間に、巣からはちみつがなくなると餓死してしまうので、なくならないだけの量を蓄えさせて、次の春までがんばってもらうのが養蜂家の仕事です。
ミツバチの寿命は長くて半年、短いと1ヶ月ほどです。ミツバチは他の昆虫と違い、ものすごく社会性がある生き物で、人間の寿命を圧倒的に短くしたのが、ミツバチたちの社会と言えると思います。半年生きるのは、秋に生まれるミツバチです。冬場は巣箱ではちみつをかじりながら、ジッとしているだけなので、翌春まで生きることができます。春に生まれたミツバチは、圧倒的に活動量が多くなるため寿命が短くなるという訳です。ミツバチは1匹では何もできず、4000匹ほど集まってようやく「一つの社会」として活動が成立し、1年のサイクルで生命を繋いでいけるようになります。つまり、4000匹が養蜂の最小単位です。ただし、ミツバチも近親交配が続いて血が濃くなると駄目になってしまうので、ある程度社会としての規模感が必要です。そのあたりは人間と同じです。

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新潟ならではの品質。

新潟は冬の寒さが厳しいため、養蜂には適さないイメージを持たれている方もいらっしゃいますが、実はすごく適していることがあります。それは花の種類が多く、長い期間咲いていることです。僕が手掛けているはちみつの種類は9種類ありますが、それほどの種類のはちみつを採り分けられる地域は実はとても希少なのです。
さらに、はちみつの「純度」が高いことも、新潟ならではの品質と言えると思います。例えば「アカシア」は、国産はちみつの中で最も収穫量が多く、どなたでも楽しめる品種ですが、新潟の「アカシア」は純度が高く、色が薄いという特徴があります。「はちみつ」の素になるものは、ミツバチたちが頑張って集めてくれた「花の蜜」ですので、必然的に色々な花の蜜が混ざることになります。そのため、「純度100%のアカシア」というのは物理的に不可能ですが、新潟県の「アカシア」は海岸線の砂丘に生えていて、「アカシア」以外の花がほとんど咲いていない環境なため、とても純度が高いのです。「アカシア」の場合、純度が高い=色が薄いため「水あめが混ざってるんじゃないか」と言われることがありますが(笑)、この薄い色こそが高品質な「アカシア」の証拠なのです。

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始めた当初は、失敗の繰り返し。
大切なのは、ミツバチたちの生活サイクルを尊重すること。

東京の大学を卒業し、23歳の時に帰郷、「養蜂」の仕事を始めたのは25歳の時でした。祖父は建築業と農家を兼業しながら、小規模ですがミツバチを飼育していて、祖父の仕事を手伝っているうちに、養蜂の仕事が実は「自然の循環を支えている仕事」であることに気付いておもしろくなり、養蜂家になる決心をしました。祖父の後を継ぐようなかたちで始めた養蜂ですが、はじめは失敗だらけでした。いま想うと、明らかに素人的な発想といいますか、「色々なことをミツバチにしてあげよう!」という熱意で、おせっかいをしすぎてしまい、ミツバチたちを「越冬」させることができず、なんと全滅させてしまいました。「ここまで丁寧に面倒をみているのになぜ!?」と悩んでいましたが、結果的にはこの「丁寧に面倒をみている」ことがよくなかったのです。
養蜂の難しさを感じながら3年ほど経った頃、少しずつ規模が大きくなってきて、「面倒を見切れない」ミツバチが出始めました。しかし秋になってみると、そういう何もしてあげられなかったミツバチほど、元気であることに気付いたんです。その時に人間の「こうしたい!」という欲望のまま養蜂業をすると全然ダメ!ということに気付きました。「放任」というか、基本彼らの生活サイクルに任せて、人間がやることは“見えざる手”くらいの感覚がちょうど良いんです。ごはんが足りなかったらちょっと足してあげたり、巣が手狭になってきたら増やしたりとか、それくらいの方が結果的には良い。それに気付けたことで、体も気持ちも楽になり、結果としてミツバチたちと上手に向き合えるようになりました。30歳までに養蜂の仕事で生計を立てられなければやめる!くらいのつもりで始めたのですが、ありがたいことに4年目を迎えるころにお客さまを確保できて、ミツバチも順調に飼育できるようになって行きました。

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5年目で取り組んだ、「リブランディング」
“純国産”“非加熱製法”へのこだわり

ミツバチを飼育していくうえで、はちみつ本来の品質や、お客さまが気付いていらっしゃらないこと、誤解されていることが明確に見えてきました。はちみつには「加熱されたもの」と「非加熱のもの」があり、僕が手掛けているはちみつは“すべて非加熱“です。はちみつは一度過熱してしまうと、本来はちみつに含まれている「ビタミン」や「ミネラル」が失われてしまいます。健康のためにはちみつを買われている方が多いと思いますが、みなさんが求めている品質は「非加熱のはちみつ」であり、これでは本末転倒です。なぜ、「加熱されたはちみつ」が多いかというと、はちみつには、白く結晶する性質があるためです。結晶化したはちみつは使いづらく、好まないお客さまが多いため、業者さんも加熱したはちみつの方が売りやすくて、結果としてお客さまの手元に届くのはほとんどが「加熱されたもの」というのが現状です。
さらに、日本に流通しているはちみつの90%以上は「外国産」であり、10%にも満たない国産のなかでも、「非加熱製法」のはちみつはわずか10~20%程度に過ぎません。はちみつ全体の流通量から見るとたったの1~2%です。
僕が取り組んでいる、“純国産”そして“非加熱製法”の品質と美味しさを、より多くの人に伝えたいと思うようになりました。ただ、「伝えたい」と思っているだけでは、伝わらないため、知り合ったデザイナーさんと相談して、本格的に「リブランディング」に取り組み始めたのです。はちみつ草野の素材と製法へのこだわり、またそのイメージに添えるように、ブランドロゴやパッケージ、ウェブサイトのデザインをすべて一新しました。結果として、少しずつではありますが、“純国産”非加熱製法“に価値を知っていただける方、支持してくれるお客さまが増えてきています。
健康食としての「はちみつ」がますます注目されはじめて、「養蜂家」という職業に興味を持つ若い人が増えてきています。僕が始めたころは、県内で一番若い方でも45歳くらいでしたが、この7年間で20代、30代で養蜂の仕事を始めた方も多くいらっしゃいます。業界としても新しい風が吹いてきていることを実感しています。
純国産・非加熱製法のはちみつを作りながら、高品質のはちみつを使った美味しくて健康的な加工品、はちみつの新商品など、やっていきたいことはたくさんあります。消費者の皆さんが知らないこともまだたくさんあると思いますので、プロの養蜂家として誇りを持ち、これからもしっかりと伝えて行きたいと思います。

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草野 竜也さん
素敵なメッセージをありがとうございました。

■はちみつ草野 公式サイト
http://mitsukusa.com/

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