Japan Vision Vol.3|地域の未来を支える人岩手県紫波郡紫波町
月の輪酒造店
横沢 裕子さん

更新日:2016年4月18日

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岩手県紫波群紫波町(しわちょう)で明治19年の創業から130年間に亘り、お酒造りを続けている、月の輪酒造店 五代目杜氏:横沢 裕子(よこさわ ひろこ)さんのメッセージをご紹介いたます。 初代横沢家の商は、現在の地で「麹屋」として始まり、四代目の横沢徳市さんが酒造りへの情熱に燃え、酒造業を創業したのが「月の輪酒造店」としての始まりです。創業以来、横沢家の血を引く継承者自らが主体となって、酒造りを行う“家業”としての理念を大切にされています。130年の伝統の継承と時代に合わせた進化・挑戦を常に考える匠として、また女性リーダーとして未来への展望を語っていただきました。

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地元のお米と水にこだわる。

月の輪酒造店では創業以来、地元のお米と水を使ったお酒造りにこだわっています。「地酒」と呼べるものの定義を「地元の原料と風土で造ったお酒」と考えているからです。酒造好適米と言えば、「山田錦」や「雄町」「五百万石」などが有名で、昔は他県で作られたそれらの品種を扱う酒蔵が多かったと思いますが、今では全国でその土地の風土・お酒造りにあったお米が作られるようになりました。私たちは古くからお付き合いのある、地元の農家さんと連携して、それぞれの原料米に合わせた仕込み方法や、出来上がったお酒の酒質などを共有しながら、お米を作っていただいています。安定的に品質の良いお米を提供してくださるので、とても頼もしいことです。
全体の9割を地元のお米で仕込む一方、一部は他県の農家さんのお米を使わせていただいています。全国各地にある高品質なお米を試してみることで、新たな気付きやこれまでに無い酒質を得られることがあるからです。
仕込み水には、全て蔵の敷地内にある「井戸水」を用い、造るお酒は「お燗」して美味しいお酒、「冷酒」で飲んで美味しいお酒、「生のまま」に飲んで美味しいお酒、といった様に、飲み方や飲まれるシーンを想像しながら、原料米・製麹(麹を造ること)・もろみの醗酵方法、搾り方、熟成のさせ方などを変えています。品質の良いお米で仕込んでいる、という自負があるため「純米酒」が中心です。月の輪酒造店で代々造ってきたお酒は、男らしいしっかりとした口あたりと風味の銘柄が中心ですが、お客さまが求める酒質の変化に合わせて、綺麗な甘さ・なめらかな口当たり・雑味のないクリアーな味を重視した銘柄も増やしています。

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伝統を守るための進化と挑戦。

お酒造りを継続していくために常に意識していることは、お酒造りの本質として伝統を守っていく一方、昔ながらのやり方に固執することなく進化をしていくこと、また時代とともに変化していくお客さまの好みに対応するための“挑戦”を続けていくことです。100%もち米を使用した銘柄や、米麹で作ったジェラートの開発などもその一環です。昔からもち米は、酒造りには向いていないとされ、使うこと自体良い印象を持たれていなかったのですが、この土地がもち米の名産地だったこともあり、「地酒」としてチャレンジすることに決めました。求める酒質が得られるまでに何年もの研究期間を要しましたが、納得の行く仕上がりとなり、おかげさまで多くのお客さまにご愛飲いただいています。
米麹で作ったジェラートは、私の父(横沢 大造)が開発したアイスクリームがベースになっているのですが、お米と米麹・牛乳のみで作られており、砂糖を加えず、麹の力で糖化させるという酒造ならではの技術(製法特許取得)を応用しています。蔵の敷地に「わかさや」という店名で、さまざまなオリジナル商品も取り扱うアイスクリームガーデンとして営業しているため、「酒蔵」ではなく「アイスクリーム屋さん」だと思っていらっしゃる方も多く(笑)、そのおかげで、これまであまり日本酒を飲んでこられなかったお客さまが、ジェラートをきっかけに日本酒に興味を持っていただく機会に繋がっています。

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人のつながりを大切にしていきたい。

私が杜氏になったころは、正直なところ酒造りの現場に女性が相容れない雰囲気があり、女性の杜氏もほとんどいませんでしたが、最近ではだいぶ増え、酒屋や酒蔵のご家族ではない方でも杜氏を目指す方が多くなりました。また、昔は酒蔵同士ライバル視する意識が強く、自分達のお酒造りのノウハウは門外不出という雰囲気がありましたが、現在は蔵元同士が集まって情報交換をしたり、お互いの良いところをシェアし合って、さらに良いお酒を造ろう!といった気運が高まっている様に感じます。お酒業界にとってとても良い変化だと思いますし、その変化が益々加速していくために、私も第一線で頑張り続けたいと思います。
「地域の未来・日本の未来に向けて」と言われると、大げさに感じてしまいますが、蔵の未来を考えるうえでは、何よりもお客さまの信頼を得ることが大切です。そのためには蔵人同士がお互いに切磋琢磨し、尊重し合える関係であること。それが無ければ絶対に美味しいお酒はできませんし、蔵の未来は語れません。また、これはお酒造りだけでなくどの業界にも言えることだと思いますが、どんなに華やかに見える仕事でも、その陰には必ず地味な仕事の長い積み重ねがあると思います。お酒造りは基本的に麹菌・酵母菌といった微生物たちの活動を助ける仕事ですので、醸造の時期になると、“彼ら”が活動しやすい環境を造るために、蔵人達は休まず動き続けます。その地道な経験の積み重ねがやがて美味しいお酒になり、多くの人の舌を感動させるのではないでしょうか。
これからも「家業」として、地元のお米と水・そしてこの紫波町の風土の中での酒造りにこだわり、日本中・世界中にファンになっていただける方を増やして行きたいと思います。

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