Japan Vision Vol.8|地域の未来を支える人山形県天童市
中島清吉商店
中島 正晴さん

更新日:2016年5月20日

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山形県天童市の伝統工芸として有名な「天童将棋駒」づくりを、明治から117年にわたり継承されている匠:中島清吉商店 四代目:中島正晴さんのメッセージです。
天童市で将棋駒づくりが始まったのは、江戸時代の後期までさかのぼります。当時、財政に苦しんでいた天童市織田藩が将棋駒づくりで財政を立て直そうと、藩士たちに奨励したことから始まり、明治初期には大阪と並ぶ大量生産地として本格的な産業に成長。大正期に入るとさらに技術革新が進み、現在では日本国内にある将棋駒の実に95%がこの天童市でつくられているそうです。その天童市で“将棋駒づくり”一筋に生きる中島さんは、天童将棋駒について「生涯を賭けて技を磨く価値のある仕事。後世に残すべき素晴らしいもの。」と、力強く語ってくださいました。そんな匠の将棋駒づくりに賭けた思いをぜひお聞きください。

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中島清吉商店は明治10年の創業です。天童市で本格的に将棋駒づくりが盛んになったのは、明治に入ってからですので、この130年間、まさに天童将棋駒の歴史と共に歩んできました。創業当時は、需要の大きい東京・大阪にも工場がありましたが、もともと天童市は将棋駒に使われている原木に恵まれている事もあり、それ以来天童市での将棋駒づくりに集中し、現在に至っています。将棋駒に使われている原料は、堅くて切り口の年輪が美しいものが良いとされています。高級なものから順に並べると、「つげの木」、「斧折樺(おのおれかんば)」、「楓(かえで)」、「朴の木(ほうのき)」といった順です。最高級の「つげの木」は、東京都の御蔵島や鹿児島県の薩摩地方で豊富に取れ、堅さ・重さ・年輪の美しさを理由にプロの棋士から重宝されています。
将棋駒を創る行程は、以下のような流れです。
一、乾燥した原木を大きくカット
二、将棋駒の形に削って成形
三、表面に文字が書かれた紙を貼り付け
四、専用の彫刻刀で彫って行く
五、紙をはがし、削った箇所に黒の漆(うるし)を塗って乾燥
六、字以外の部分をやすりで削り、仕上げる
将棋駒づくりにも様々な形があり、上記は「彫り駒」の行程です。他にも、彫らずに漆で字を書く「書き駒」、彫った後に漆を埋める「彫り埋め」、そして彫り埋めした字をさらに漆で塗って浮き出させる「盛り上げ」の4種類があり、「盛り上げ」が最高級品とされています。プロ棋士達の試合ではすべて、「つげの木」を使った「盛り上げ」が使用されます。

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10年程度でプロと呼べるレベルに。

職人の技術が最も必要なのは、「彫り」と「書き」、「彫り埋め」と「盛り上げ」です。将棋駒は「ふ」から「王」まで、駒の大きさが異なるため、専用の楔(くさび)で大きさを調整して固定し、左手で持ち方を変えながら、右手(利き手)で彫り進めます。字を掘る深さは、書体の太い箇所は深く、書体の細い箇所は薄くといった具合に、字の太さによって刀の入れ方を変えていきます。何回刃を入れても、仕上がった状態で、1回で彫ったような、つまり一筆で書ききったような美しさに仕上げることが重要です。この職人の技術やセンスは、口で言って教えられるものではありませんが、手先が器用であること、また「書」の心得があった方が覚えるのは早いでしょう。そして、ある程度の基本を教えた後は、とにかくたくさん駒に触れることです。このような修行を経て、10年程度、上達の早い人で5〜7年程度かかり「プロ」と呼べるレベルになれると思います。一流の技術を身に付けるために最も必要なセンスは、「常に完璧に仕上げる!」という情熱と責任感です。頭の中で最高の仕上がりを想像しながら、将棋駒づくりと向き合えない人は、何年経験を積んでも一流と評される将棋駒はつくれません。

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伝統工芸は守っていくべき素晴らしいもの。
「天童将棋駒」の技術を継承していきたい。

高級な将棋駒は「手づくり」が基本ですので、つくられた駒はすべて世界に一つしかない物で、それを「味」として重宝されていた時代もありましたが、最近では寸分の狂いもなく、ピシっと揃っている「精度」の高い駒を求められるようになってきました。木を削る正確さと職人の技術がますます重要になっているのです。また、伝統工芸である「将棋駒づくり」を今後も発展させていくためには、将棋ファンを増やす努力が欠かせません。若い方の間でテレビゲームやスマートフォンゲームなどが流行っている反面、「人と人」が対面で行う将棋も見直され、お祝いなどでお子さまに将棋駒を贈られるご両親からの依頼も増えています。私たちも多くのお子さまや若い方が将棋に触れ、その楽しさを感じる機会が増えるように、将棋駒を学校に寄付することや、将棋教室を開くなどの活動をしています。また、字に色を付けたり、文字が大きく見やすい駒など、高齢の方にも楽しんでいただける将棋駒づくりも行っています。
「将棋駒」に限らず、日本で古くから受け継がれている伝統工芸は、今後も守っていくべき素晴らしいものですし、日本国内だけでなく、広く海外からも支持されるチャンスは沢山あると思います。若い方はぜひその自信を持ち、実直に「技」と「品質」を磨いてください。今後も最高の品質を確保しながら、時代に合った新しい提案もしていくことで、将棋ファンを広げ、「天童将棋駒」の技術を継承して行きたいと思います。

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