Japan Vision Vol.16|地域の未来を支える人佐賀県佐賀市
海苔の養殖 有明の風
東島 吉孝さん

更新日:2016年7月1日

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日本一の海苔産地である、有明海を臨む佐賀県佐賀市で60年以上にわたり、「初摘み海苔」の美味しさにこだわり、海苔の養殖・海苔商品の生産を行う「有明の風」代表:東島吉孝(ひがしじまよしたか)さんのメッセージをご紹介いたします。
「海苔の養殖は、海の農業である」と東島さんは言います。海苔の養殖は1年の中で、漁場の水温が低い半年間に集中して行うそうです。海苔の種を網に付着させる“種まき”から始まり、生存競争に弱い海苔を守るため、今では珍しくなった干出(※かんしゅつ:一日のうちに何時間か網を海中から上げて太陽に当てることで海苔を丈夫にし、病原菌や他の海藻の胞子から守る作業)を毎日行うなど、“収穫”まできめ細かい世話をすることが、海苔の良し悪しを決めるのだとか。そして、収穫された海苔を職人達の手で「焼海苔」「塩海苔」「味海苔」など、商品として加工し、全国のファンに出荷します。 海苔の養殖から加工まで一切の手間を惜しまず、徹底的に「美味しさ」を追求する匠のメッセージ。皆さまもぜひご一読ください。

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海苔の養殖の発祥は江戸で、その起源は江戸時代に遡り(さかのぼり)ます。当時はまだ、「種まき」という技術がなく、海苔の養殖は、種場と呼ばれる海域に網を張り、海苔が付着して成長してくれるのを待つという、自然まかせのものでした。昭和20年代になって、海苔の種(糸状体)を、人の手で網に付着させる技術が開発され、「種まき」が出来るようになり、そこから海苔の養殖も広がりました。意外に思うかも知れませんが、現在日本一の海苔産地となっている佐賀県で、海苔の養殖が始まったのは戦後から。九州地方の中でも、天然の種があった鹿児島・熊本よりも後のことです。私で四代目になる「有明の風」は、代々有明海で「漁」をしていましたが、昭和28年に海苔の養殖を始め、以来60年以上続けています。

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海苔作りに適している有明海で、手間を惜しまず大切に育てる。

日本一の広さを誇る干潟(ひがた)を持つ有明の海は、とても希有な海です。およそ数万年も前に、富士山よりも高かったと言われる阿蘇山が大爆発を起こし、その火砕流(かさいりゅう)が有明海に堆積(たいせき)して広大な干潟をつくりました。この火山灰を含んだ泥が栄養分を豊富に蓄えてくれます。また、有明海は陸から流れ出る山水と海水とがちょうどよく交わり、「海苔の養殖」を行うのに適した水温になります。さらに、通常の大潮で5メートル、最大で6メートルに達する日本一の「潮の干満差」もプラスに作用します。美味しく張りのある海苔を育てるには、「干出」といって一日のうちに何時間か網を海中から上げ、太陽に当てる必要があり、この大きな干満差が「干出」に利用できるという訳です。海水にずっと浸していた方が海苔の成長は早いですが、最初に付いた海苔が弱くなり、海苔全体の味と香りも損なわれてしまいます。「干出」により、海苔の成長を敢えて止め、海苔の細胞をギュッと締めてあげることが重要なのです。今ではこの「干出」を行う風景は珍しくなってしまいましたが、養殖が始まる10月~3月は必ず“毎日”行っています。
こうした手間を惜しまず、大切に育てた「初摘み海苔」の美味しさは格別です。日本一美味しい海苔であると自信を持って言えます。私たちが言う「初摘み海苔」とは、種まきをしてから毎日「干出」をして、1ヶ月ほどで収穫する若い海苔のことを指し、海水に浸かりっぱなしの海苔と違い、食べた瞬間に圧倒的なパリパリ感と、海苔本来の風味を感じていただけると思います。海苔の養殖を行う、毎年10月から3月末までの半年間、男性チームは毎日海に出て海苔の「健康管理」を行い、女性チームは収穫した海苔を焼いたり保存したりと、丘(陸)の上での作業を行います。収穫が終わった後の半年間は、海苔商品としての加工・出荷、新しい商品の開発などを行う!これが私たちの一年です。

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地元の人が、わざわざ買いたくなる海苔をつくる。

おかげさまで、全国のお客さまからご愛顧いただいていますが、元々は「地元のお客さま」をターゲットにしていました。なぜかと言うと、地元の人達は“海苔があまりにも身近にありすぎて”、海苔は近所からもらうものであり、「お金で買うもの」という認識がないからです。さらに舌も肥えているため、ある意味一番ハードルが高いお客さまです(笑)。昔から海苔に慣れ親しんでいる、地元のお客さまが、お金を出してでも買いたくなるような海苔をつくろう!という想いで海苔を養殖し、さまざまな商品を開発してきました。その甲斐もあり、地元のお客さまが買ってくれるようになり、ギフト・贈り物として他のエリアのお客さまにも贈ってくれるようになり、それを食べたお客さまがリピーターになってくれました。とてもありがたいことです。

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これからも美味しい海苔を守るために、時間と情熱を捧げていきます。

日本一の海苔産地として成長した佐賀の海苔は、高品質なブランドとして農林水産大臣賞を受賞するなど全国的に高い評価を受けています。しかし、それを脅かすかのように、諫早湾(いさはやわん)の干拓潮受け堤防排水門による有明海の異変問題や、地球温暖化による水温の上昇などの環境問題、後継者の問題など、今後も永く継続していくための懸念事項はたくさんあります。私たちの生活を支えてくれる大切な海を守るための活動、震災で「種」を失ってしまった海苔業者さんへの種の提供や共同事業の展開、また、地元の子供達に興味を持ってもらえるような「海苔作り体験」、2年前から始めている「日本IDDMネットワーク/1型糖尿病患者と研究開発」への寄付など、これからも県や自治体と連携して、「継続」のサイクルをつくる活動を続けていきたいと思います。
海苔の養殖のやり方を覚えるには、3~4年で形になりますが、品質を極めるまでには最低でも10年は掛かります。どんな仕事でも、本当に結果が出るのには時間が掛かるように、ホンモノを追求するには、それだけの時間と情熱を捧げる覚悟が必要だと思います。お客さまの見えないところで、どれだけ自分のこだわりが持てるか。若い世代の皆さまには、このお金では買えない仕事の楽しさと、やり遂げた後の充足感を追求して、一所懸命に仕事をして欲しいと思います。

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