Japan Vision Vol.18|地域の未来を支える人福岡県うきは市
手作り棕櫚の箒 株式会社キ乃シタ
木下 宏一さん

更新日:2016年7月11日

images

福岡県うきは市で約60年に亘り、天然の「棕櫚(しゅろ)」を素材に、一本一本手作りで箒(ほうき)作りを続けている、株式会社キ乃シタ 代表取締役社長:木下宏一さんからのメッセージをご紹介いたします。うきは市では古くから、農家の庭先に棕櫚の木が植えられており、農閑期にその棕櫚を使って箒作りをしていたそうです。箒の素材には、複数の植物が用いられるそうですが、「棕櫚」だけは別格と木下さんは言います。棕櫚の樹皮の繊維はやわらかくて丈夫、しかも天然油を含んでいるため、濡れても腐らず、切れにくいとのこと。そんな棕櫚で作られた箒は、腰がしっかりしていながらも、目が細かくてやわらかい。畳や床を傷つけず、よく掃けるだけでなく、天然油によるワックス効果で艶も出るのだそうです。聞いただけでも掃除が楽しくなりそうですね。「棕櫚の箒」と聞くと、懐かしい印象を持たれる方が多いかもしれませんが、日本全国にいるお客さまの半数以上は20代~40代とのこと。伝統を受け継ぎながらも、機械化の波にのまれることなく、新たな感性と価値提供で多くのファンを惹きつける匠のメッセージ。ぜひご一読ください。

images


一本の箒に一ヶ月、惜しみなく手間をかける。

うちの創業は昭和21年。箒だけでなく、「竹熊手」「デッキブラシ」や「たわし」など、清掃器具全般を作っています。「棕櫚の箒」作りは、私の親父であり師匠でもある二代目:木下 且益(きのした かつよし)が始めました。親父のキャリアは既に60年以上!今でも毎朝8時には作業場に出て箒を作っています。私が作るよりもはるかに早く、且つ正確なそのスキルには驚愕します。「棕櫚の箒」の手作りは、以下の通り12行程に分かれ、約1ヶ月間かけて仕上げています。

1.原材料となる棕櫚皮の選別と玉結い
2.玉結いした棕櫚を黒竹の柄に取り付け、ムダな部分を鎌でカット
3.一昼夜水に浸し、棕櫚を柔らかくする
4.布状の棕櫚皮を一本一本の繊維状に梳きほぐす
5.掃くときのバランスを計算し、毛先を切り揃える
6.一週間ほどかけ、しっかり芯まで乾燥させる
7.棕櫚皮の繊維に付いた繊維くずや皮の樹脂をたたき落とす
8.流水で丁寧に洗い、ホコリを取り除く (※浮羽の水は名水百選です)
9.オリジナル作業 (※秘密の作業です)
10.1回目の乾燥と同じく、ゆっくり芯まで乾燥させる
11.玉結い部分を中心に、はみ出た無駄な毛を焼き落とす
12.一本一本、細部を確認し、椿油で梳かして仕上げ

棕櫚の良さについては前段でご紹介いただいた通りですが、もう一つ。昔の方の知識で、「箒を履く時にはお茶殻といっしょに掃きなさい!」と聞いたことはありませんか?それは、ゴミが舞い上がるのを抑える効果があるからなんです。棕櫚はその役割も担ってくれるため、ゴミが舞い上がらず、しっかりと掃けます。箒の柄の部分には、主に高知産の黒竹を使用しています。複数の竹を試してみましたが、棕櫚に合う「見た目の美しさ」と「剥げずに長く使える」という利点で、黒竹を選びました。親父も私も、お互いすべての行程をこなしますが、前半の行程は親父が行い、後半の仕上げを私が担当するなど、分担して行っています。完成した箒のラベルや久留米絣の収納カバーの製作は、おふくろと家内が担当していて、こちらも一つ一つ手作業です。お客さまからは、「お母さんが書いた手製のラベルやカバーが素晴らしい」という声もたくさんいただいています。

長い工程の中でも、とりわけ時間がかかる「洗いと乾燥」について、「棕櫚はもともと乾いているし、わざわざ洗ったり、乾かしたりしなくても良いのでは?」というご質問をよくいただきますが、この工程を踏む理由の一つは、棕櫚は独特の皮脂が解きほぐすほどにたくさん出ることと、また、洗いと乾燥をしっかりやらないと、解きほぐしの段階で、棕櫚の良いところも持っていかれてしまうからです。細かく解かなくても、箒としての役割を果たしてくれますが、きめ細かく解かれた箒の方が、使い勝手に優れているため、惜しみなく手間を掛けているのです。

images

images

純粋にお客さまのことを考えて、自分達にしか作れないものを作る。

箒作りを行う傍ら、全国各地で行う展示会の際に、買っていただいたお客さまに、「お使いいただいている箒を持ってきてください」というご案内状を出しています。棕櫚の箒は20年間、問題なくお使いいただけることを約束していますが、お客さまがお持ちの箒をより長く使っていただくために、傷んだ箇所の修理や調整をするためです。これは変な話かも知れませんが、他社さんの箒でも同様に無償で修理・調整をしています。我々がなぜこういったことをしているかというと、単純に箒に愛着があり、箒をお客さまに送る際には、「娘を嫁に出す」様な気持ちになるからです。持ってきていただくと、大事に使っていただいているかどうかが直ぐにわかります。お客さまにも「子守りやお料理はできませんが、そうじだけはしっかりやります。文句一言も言いません。」とお伝えしています。その甲斐あって、お客さまから心温まるお手紙をたくさんいただいています。(※これまで届いたお手紙を全てアルバムの様に保存されていました) スタッフ一同、使っていただくお客さまのことだけを考えて作っていますので、本当に嬉しく思いますし、努力が報われた気持ちでいっぱいになります。

images

images

最新の掃除機とは違う魅力が、箒にはあると思います。

「箒」と聞くと、懐かしいイメージを持たれる方が多いかと思いますが、お客さまの半数以上は20代~40代の方です。ご夫婦で1本ずつ買ってくださる方もいらっしゃいます。なぜ、その世代の方が購入されるのかを考えてみると、「生まれた時から掃除機がある」からではないでしょうか。最新の掃除機を使われている方からも、「音が気になる」「使っているうちに、吸引力が弱くなる」「2~3年でバッテリーの交換が必要になる」など、便利さよりも、むしろデメリットの方を感じている声を良く聞きます。そこへきて、「音がない、ゴミがよく掃ける、電気は要らない、20年間は使える」という、棕櫚の箒に大きな魅力を、感じていただいているのかも知れません。
広い視点で、「箒の競合製品は何か?」と考えると、やはり「掃除機」ということになります。私が引退するまでには、日本国民の半数以上の人が、「箒」を主役に掃除をしているような状態を創りたいと思っています。
二人いる息子達にもよく言いますが、厳しい経済環境の中で生き残るためには、自分達にしか作れないモノ。自分達でしか出せない価値を追求することこそが、重要と考えています。これからも常に心もキレイに掃除された状態で、純粋にお客さまのことだけを考えて、オンリーワンを追求して行きたいと思います。

images

images

images

ページの先頭に戻る