更新日:2016年08月08日

Japan Vision Vol.23|地域の未来を支える人 岡山県岡山市
撫川うちわ職人 石原中山さん

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岡山市の撫川(なつかわ)地区に江戸時代から伝わる伝統工芸品「撫川うちわ」を、30年以上に亘り作り続けている、撫川うちわ保存会「三杉堂」代表:石原中山(いしはら ちゅうざん)さんのメッセージをご紹介します。優雅な美しさを持つ撫川うちわは、足守川で3年以上育った「女竹(めたけ)」のみを使用して作られています。まっすぐに伸びた女竹は、手に持つとしっかり馴染み、扇ぐとほどよくしなり、優しく心地の良い風を届けてくれます。撫川うちわの製作工程は、「骨作り」「紙作り」「紙貼り」と大きく3つの行程に分かれており、そのすべてが繊細な手作業で行われることから、一人前の技を身につけるまでには、20年かかると石原さんは言います。インタビューでは、撫川うちわの歴史、作り方とその魅力を余すことなくお話いただきました。 350年間変わらない熟練の技と、心地よい風を継承する匠のメッセージ。皆さまもぜひご一読ください。

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撫川うちわは、江戸時代に武士の内職として始まりました。文献に残っている記録によると、元禄12年(1699年)、三河(現在の愛知県)から庭瀬城に入城した大名の板倉家が、精巧なうちわ作りの技術を有していたことから、その技術が伝えられたそうです。うちわの骨に使用されている「女竹」が、足守川の岸辺に広く群生していたこともあり、この地で盛んになりました。撫川うちわの高尚優美な姿は多くの人の目に留まり、江戸後期には徳川将軍に献上されるほどになります。
その後、明治期に入ると産業化の波に押されて衰退し、戦後には一時消滅してしまいましたが、私の師匠でもある、坂野次香(さかの じこう)さんと定香(しずか)さん親子によって復活・継承されました。そして現在、私が代表を務める、撫川うちわ保存会「三杉堂」に引き継がれ、こうしていまに伝えています。

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撫川うちわの製作工程は大きく3つ、どの工程も繊細な技術を要します。

私が撫川うちわを作ることになったきっかけは、昭和55年に初めて参加した公民館での講習会です。その時に見せてもらった、撫川うちわの優美さにひと目で魅かれてしまいました。私自身がすでに定年退職していたタイミングであったことと、師匠である坂野次香さんが病気にかかってしまい、うちわ作りを続けることが難しくなったことが重なり、撫川うちわの技術を継承する決意をしました。
撫川うちわの製作工程は、大きく3つ(骨作り、紙作り、紙貼り)、全9つの行程(竹切り、骨割り、骨編み、糊入れ、原図描き、歌つぎ作り、中子紙作り、紙貼り、仕上げ)に分かれ、どの作業も非常に繊細な技術を要します。女竹を均等に64本に割る「骨割り」の作業は、目と指の感覚だけを頼りに行いますが、1本でも厚みが違ったり、折れてしまったら最初からやり直しです。また、和紙の上部に雲形に俳句を書き、下部に俳句と調和した花鳥風月を描く「原図描き」、俳句を灰色紙(雲形)と地紙に分けて切り、俳句の文字部分を糊で継ぐ「歌つぎ作り」、さらに絵柄のすかし部分を除いて切り絵として色つけする「中子紙作り」の作業も、3枚の和紙を寸分狂わぬように、専用の刀でひとつひとつ切り抜いて行きます。こうした行程を、すべてきちんと出来るようになるまでは、やはり20年は掛かるでしょう。全てが手作業で、1枚1枚のうちわに、作り手の個性が出るところも魅力です。

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撫川うちわの魅力は、一枚のうちわに見た目の優雅さと俳句の世界が入っています。

撫川うちわの一番の魅力は、花鳥風月の絵柄と「歌つぎ」「透かし」により、1枚のうちわにひとつの世界が入っていることです。見た目の優美さと、俳句の世界の両方を楽しみながら、優しい風を感じてみてください。また、扇面に使用されている和紙は、高知県の楮(こうぞ)を手漉きし、“にかわ”でコーティングしてあるため、水にも強く耐久性があります。うちわの縁を彩る生地は、京都に染めに出した絹を使用しています。ここまで素材にもこだわり、繊細な技術が施されたうちわは、日本全国探しても「撫川うちわ」だけではないでしょうか。おかげさまで、贈り物としても大変喜んでいただいています。
現在、保存会のメンバーは私の他に10名おり、全員が素晴らしいモノを作っているという満足感を感じながら、日々うちわ作りを続けています。美しい撫川うちわを後世に残すため、技術の伝承と後継者の育成に取り組み、絵柄も伝統的なものを踏襲しつつ、時代と共に新しさを取り入れています。ぜひ若い皆さまにも、伝統工芸品の魅力を感じ、継承することの大切さを知っていただきたいと思います。そんな先人たちの想いを胸に、今日もうちわを作ります。

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