更新日:2016年09月30日
Japan Vision Vol.31|地域の未来を支える人
広島県瀬戸田町
柑橘農家
原田 悟さん
地域の未来を応援する「Japan Vision」。第31回目となる今日は、日本一の国産レモン産地、広島県の瀬戸田町(せとだちょう)でおよそ40年に亘り、「せとだレモン」をはじめ13種類以上の柑橘(かんきつ)類を栽培している、柑橘農家・指導農業士:原田 悟(はらだ さとる)さんのメッセージをご紹介します。 広島県の南東部、瀬戸内海のほぼ中央に位置する瀬戸田町は、生口島(いくちしま)と高根島(こうねしま)の2島からなり、通称「レモンの島」と呼ばれるほど、レモン栽培が盛んです。生口島出身の原田さんは、三代に亘りレモン栽培を続けておられ、農薬や化学肥料を通常の半分以下に抑えて栽培した、皮ごと食べられる「エコレモン」や、ハート形レモン、星形レモンの栽培も手掛けるなど、レモンの品質と可能性を広げる活動をされています。 ビタミンCとクエン酸の含有量が突出して高く、美容効果も高いと言われる国産レモン。その中でも随一の人気を誇る「エコレモン」の誕生秘話や楽しみ方などについての匠のメッセージを、ぜひご一読ください。
「せとだレモン」の特徴は、糖度と酸味が高いことです。
広島県のレモン栽培の歴史は、明治時代まで遡り(さかのぼり)ます。瀬戸内海の温暖な気候が、寒さや風に弱いレモンに適していたため、沿岸部を中心に本格的にレモン栽培が始まりました。中でもここ瀬戸田町は、年間平均気温が15.5℃と暖かく、土壌は水はけの良い花崗岩、年間を通して降水量も少ないため、レモン栽培にはとても恵まれた環境です。現在では島の農家の99%がレモンやミカンなどの柑橘を栽培しているため、花が咲く5月中旬には、島全体が柑橘の花の香りに包まれます。決して大げさではありません。
「せとだレモン」の特徴は、まず糖度と酸味が両方とも高いことです。“みかん並み”の糖度を持ちながら、それに負けないだけの酸味があるから、他のレモンには無い、深いレモンの味と香りを感じていただけると思います。そして、防腐剤やワックスは一切使用せず、農薬や化学肥料を通常の半分以下に抑えて栽培しているので、安心して“皮まで食べられる”ことです。皮ごと輪切りにして香り付けをする「レモン鍋」や、レモネードなど、色々な食べ方が楽しめます。さっぱりとした味わいで、栄養価・美容効果ともに高いと言われ、女性にも大変好評です。レモン鍋は個人的には鶏が好きですが、白身魚の鍋や、牡蠣鍋にも良く合うと思います。
育てるのに欠かせないことは、レモンの木と畑の健康管理です。
レモン栽培のサイクルは、5月に「レモンの花」が咲きはじめ、6月ごろから実がなり始めます。そして10月下旬ごろに収穫期を迎え、“手摘み”での収穫が翌年4月頃まで続きます。美味しいレモンを育てるのに欠かせないことは、レモンの木と、畑の“健康管理”です。レモンの実がなり始めてから、収穫の秋に向けて一気に成長期に入りますが、その間は雑草達も成長しやすいため、土の中にある栄養分が、しっかりとレモンの木にいきわたるように、小まめに雑草を排除する必要があります。また、レモンの実に傷が付かないように配慮することも重要です。強い風で樹が揺れるなどして、レモンの実に傷が付くと、“かいよう病”と呼ばれる病気にかかり、傷モノとして出荷ができなくなってしまうため、夏から秋の台風シーズンには、特に注意が必要です。
こうして大切に育てたレモンを農協さんからのオーダーと調整しながら、出荷するわけですが、なぜ一度に収穫しないかというと、出荷の直前まで、新鮮な状態を確保するためです。レモンは酸味が強く、腐りにくい性質があるものの、「せとだレモン」は防腐剤やワックスを使っていないため、他のレモンに比べて“ほんとうに新鮮”な状態でいられる期間も短いからです。
広島県特別栽培農産物に認定されました。
今では、国産レモンの過半数を占める広島レモンですが、歴史を振り返ると、決して順風満帆ではありませんでした。1964年から始まった「輸入レモンの自由化」、そして1980年代に広島県全域が大寒波に見舞われ、日本国内のシェアを輸入レモンに奪われてしまった時がありました。しかし、輸入レモンに使われていた防カビ剤などの農薬から、発がん性物質が検出されたことをきっかけに「広島レモン」の見直しが始まり、「安心して食べられる国産レモン」の栽培に瀬戸田町の農家・生協・農協が一丸となって知恵を絞り、取り組み始めました。その結果、農薬の使用を最低限に抑えたレモンの栽培に成功し、2003年には、「エコレモン」が環境保全型農業推進コンクールにおいて優秀賞を受賞。2008年には、「せとだレモン」として広島県特別栽培農産物に認定されました。「広島レモン」こそ、安心の国産レモンという評価が定着し、その後国内シェアナンバー1の座に返り咲いています。
付加価値を高めるための新たな取組みが必要だと思います。
今後も「せとだレモン」の品質を継承していくためには、まず高品質なレモンを作り続けること、そしてより多くの方に「エコレモン」の美味しさと楽しみ方を知ってもらうためのPRが重要だと考えています。15年前から行っている、レモン狩りとレモン鍋などの料理作りの両方を楽しめる体験ツアーもその一環です。また、輸入レモンの自由化で、国産レモンの値崩れが起きてしまった時に開発した、ハート型レモンや星型レモンなどのように、国内最大の産地である広島だからこそ、レモンの付加価値を高めるための新たな取組み(チャレンジ)が必要だと思います。ハート型・星形レモンはおかげさまで、全国のカフェやレストランの方を中心に好評です。
食の安全性がより重視されるようになり、安全で高品質なモノに対する評価は益々高まっています。若い世代の方にも、安全で高品質な農作物を作る楽しさと、その価値を信じてどんどん入ってきて欲しいです。そのために、私たち自身が、心と体を健康な状態で保つことを心掛け、これからも美味しいレモンを作り続けます!
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