更新日:2016年10月17日

Japan Vision Vol.34|地域の未来を支える人 大阪府大阪市
現代の名工 大阪錫器株式会社 代表取締役社長
今井 達昌さん

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約1300年前に日本に伝わり、普及した京錫(きょうすず)の流れをくむ、伝統的工芸品『大阪浪華錫器(おおさかなにわすずき)』。江戸時代後期に創業した初代伊兵衛(いへえ)・錫伊(すずい)に発し、代々大阪で隆盛を極め、その洗練された技術とモノづくりの精神を今日まで継承されている、大阪錫器株式会社 代表取締役社長・現代の名工の今井 達昌(いまい たつまさ)さんのメッセージです。今井さんの下には、一流の職人を目指す多くの若者が集まり、日々技を磨き、競い合っています。ベテランの職人さんが多いイメージの伝統工芸業界において、大阪錫器では、製造部門の社員20名(※うち、5名が国認定の伝統工芸士)の半数が20代の若者だそうです。今回の今井さんのお話の中で、特に強く印象に残った言葉をご紹介します。

生活の中で使われないものは“伝統的工芸品”ではない。
つくり方を変えてしまったら、それは“伝統工芸品”ではない。
つくり方を変えず、日々変化する生活様式に合ったモノをつくることが、
“伝統工芸士”の存在価値。

これまで数百種類におよぶ新しい錫器を創造、数々のヒット作品を世に送り出し、シェア日本一(※多数メディアで全国の錫器シェア6割以上の記載)にまで上り詰めた背景、また錫器のファンだけでなく、多くの若者を惹き付けているその理由が伝わってきます。“温故知新”の姿勢を貫く匠のメッセージを、ぜひご一読ください。

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「絶対に自分にしかつくれない錫器を造ってやる!」という思いで修業に励みました。

僕がこの道に入ったのは22歳の時。近畿大学の金属工学科を卒業した後、祖父が設立したこの会社で修行を始めて、今年で36年目になります。入社した当時、職人さんが7~8人ほど居ましたが、幼少の頃から負けず嫌いで、いつも「絶対に自分にしかつくれない錫器を造ってやる!」という思いで修業に励みました。
「錫」は非常に魅力的な素材です。融点が低いため(約230℃)、加工がしやすく、また、融点に達しても錫独特の光沢を残したまま鋳造(ちゅうぞう:成形すること)することができます。また、熱の伝導率が非常に良いことや、高い密封性を確保できるのも特徴です。錫が最初に日本に伝わったのも茶筒からで、お茶葉に湿気が入らず、傷ませないとその価値を認められ、公家からも重宝されたそうです。

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錫は人体に無害で金属臭もないため、食器・酒器としても愛用されてきました。

実際に見せていただいた茶筒の口に蓋を置くと、錫の重みでゆっくりと閉まりはじめ、10秒程も経ってから、音も無く、また隙間も無く閉まりました。
さらに、錫は人体に無害で金属臭もないため、食器・酒器としても愛用されてきました。錫の分子は粗く、水やお酒を入れると、不純物を吸着させて、味をまろやかにする効果があると言われています。お燗(おかん)などで錫器を使っていただくと、「同じお酒ですか?」と驚かれるくらい味が変わり、ビールを注げば、非常にきめ細かい泡が立つと、ご好評をいただいています。

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新しい形や色を提案することで、従来通りのモノの良さも見直してもらえるきっかけにもなっています。

うちの一番の強みは、錫の製造技術と、生活様式に合わせた商品開発力にあると考えています。錫の特徴と魅力を、よりお客さまに感じていただけるように、これまで様々な生活様式に合わせた、数百種類におよぶ錫器を提案してきました。現在、主力商品になっている「タンブラー」も、そうした中で生まれた商品です。また、「錫と言えば、銀色の光沢」というイメージを払しょくするために、カラーバリエーションを増やす努力もしてきました。漆器の産地で活躍する、漆器つくりの匠たちとのコラボレーションで開発した「錫漆(すずうるし)」は、既存の銀・いぶし(黒っぽい配色)・赤だけにとどまらず、青・緑・黄色・ピンク・黒といった、これまでにないカラーの錫器を実現し、多くのお客さまが目を留め、手に取っていただける商品になりました。新しい形や色を提案することで、従来通りのモノの良さも見直してもらえるきっかけにもなっています。

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社員には「責任感のある自由」を与えることにしています。

職人の世界では「目で見て盗め」なんてことをよく言われますが、うちではそういう教え方はしていません。先にしっかりと理論で教え、それぞれの工程の持つ意味をしっかりと理解させる。そのあと実際に目の前でやって見せて、自分でやらせてみる。こうすることで、教えられる側にとっても覚えやすく、会社にとっても効率化につながりプラスに働きます。それと、社員には「責任感のある自由」を与えることにしています。大事なのは、一人一人が仕事に対する責任感と明確な目標を持つことであり、品行方正さや、従順さを求めている訳ではないからです。結果として、仲間同士での競争が生まれ、皆、良い意味で個性を発揮していると思います。
職人には引退もなければゴールもありません!自分が一人前だと思った時点で、成長は止まってしまいます。死ぬまで精進していくべき人種だから、58歳の私にしたって、まだまだ“若手”です。それと職人の世界では、仕事ができない先輩のいうことを後輩は聞きません。だから先輩は、意地でも後輩にも追いつかれない義務があります。始まりは、10対1だった実力差が、経験を積むごとにだんだんと埋まってきて、最後は100対99でもいいのです。とにかく負けない意地を持つことが大事です。その意地が個人も会社も成長させてくれるのです。

職人に限らず、周囲から認められて、
お客さまとの良好な関係を築くためには、
常に自覚を持って、
高みを目指して、
新しいことを考えて、
仕事に取り組む姿勢が大切だと思います。

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