更新日:2017年02月06日

Japan Vision Vol.48|地域の未来を支える人 山梨県甲府市
株式会社サドヤ 四代目
取締役 今井 裕景さん

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山梨県甲府市で大正6年(1917年)から、ワインの醸造・販売を手がける、株式会社サドヤ 四代目:今井 裕景(いまい ゆうきょう)さんのメッセージをご紹介します。サドヤの前身は、江戸時代より続く「油屋の佐渡屋」でしたが、明治42年(1909年)に洋酒・ビールなどの代理店「サドヤ洋酒店」に転業。サドヤ洋酒店を営んでいた、今井さんの曾祖父:今井 精三さんが、現在のぶどう農場を開墾し、フランスより導入した約40種類の苗木から本格ワインの醸造を開始しました。今年で創業101年目を迎えます。

精三さんの長男:友之助さんと共に、現在のぶどう農場を開墾するまでの間は、勝沼産ブドウから造る「甲鐵天然葡萄酒」を商標とするワインを醸造していましたが、フランスではワイン専用品種による醸造が行われていること、地域ごとに気候条件にあったブドウ栽培を行っていること、またそのワインが地域の特産となっていることと合わせて、昭和を迎えた日本の食文化が将来、欧米化していくだろうという見込みを持ち、自ら日本でブドウ栽培を行うことを決断しました。その当時は海外からの物流と言えば「船」しかない時代。フランスの苗木屋から何度も苗木の「輸入」を試みるも、運ぶ途中で枯れてしまう状況からのスタートだったそうです。

四代目:今井裕景さんからいただいたお話は、日本のワイン造りの歴史と共に、今後、日本の食文化にますますワインが溶け込んで行くことの可能性を感じる内容でした。そんな匠からのメッセージを、ぜひご一読ください。

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本格ワインの醸造を目指し、フランスへ手紙を出し、醸造用品種の苗木導入を試みました。

私の曾祖父がワイン造りを始めた頃の日本の酒文化と言えば、日露戦争が終わり、ようやく「ビール」を飲むようになった、という状況でした。家庭の食卓にワインが並ぶ機会はほとんどありませんでしたが、山梨県はもともとぶどう造りが盛んで、「甲州」というぶどうの品種には1,000年以上の歴史があります。自分たちの住んでいる場所で獲れた原料で、その土地にあった美味しいお酒が造れるのではないか?という想いが、サドヤのワイン造りの始まりです。

開始当初、勝沼に「良いぶどうがあれば高く買います!」という看板を立て、地元の農家から良質のぶどうを仕入れることを試みましたが、ぶどうは既にデザートや食用として重宝されていたため、なかなか良いぶどうを譲ってくれませんでした。さらに、ワインの本場であるフランスのワイン文化を深く調べてみると、当初日本で行われていたワイン造りは、どうやら本場と少し違うらしいこともわかりました。ならばまず、本場のワイン造りから学ぼうと!フランス語を習得します。日本のワインと、フランスワインとの違いはまず、ぶどうの品種です。食べる用の生食用品種と、ワイン醸造用品種は異なります。本格ワインの醸造を目指すなら、まずは醸造用品種の苗木の導入しないとダメだということがわかり、早速フランスの苗木屋に手紙を出して、ワイン醸造用品種の苗木の導入を試みました。

ですが、当時の海外からの物流と言えば「船」しかありません。数ヵ月もかけて最初に運ばれてきた苗木はすべて枯れてしまったそうです。その後、苗木屋と運ぶための専用の箱作りや、運び方を何度も手紙で相談して、失敗して、またトライして、昭和の初期になり、ようやく生きた「苗木」を手に入れることができました。こうして、1936年(昭和11年)に、曽祖父の精三が、長男の友之助と共に開墾した自社の農場で、初めてワイン醸造用品種によるぶどう栽培に成功し、当時の日本にはまだ浸透していなかった本格辛口ワインの醸造が始まりました。
当初の売れ行きはかなり厳しいものだったそうですが、海外からのお客さまが多いレストランなどで取扱いが決まり、徐々に広がっていきました。

フランスの文献から学んだ、良いワイン醸造用のぶどうが栽培できる農場の条件として次の3点があげられます。

1:日当たりが良いこと
2:水はけが良いこと
3:痩せた土壌であること

「痩せた土壌」がなぜ良いのか?というと、ぶどうは元々備えた機能として、厳しい条件の方が強いぶどうが育つからなのです。生産性を考慮すると、肥えた土地の方が量も取れますが、ワイン時醸造用ぶどうの場合は、土地の養分や水分が少ない方が良いぶどうが育ちます。また、意外に知られていないことですが、山梨県は日照時間が日本一長い県です。山梨県に多い山間の傾斜地(水はけがよい)で、かつ南向きの土地は、ワイン造りに適したぶどうができる農場の3条件にすべて合致している!という訳です。本場フランスに比べると、まだまだ歴史は浅いですが、山梨県でワイン造りが盛んになったのは、むしろ必然と言えます。

ワインの品質はぶどうで決まります。もっと言うと、原料に使用しているぶどうの品質を超えるワインは絶対にできないということです。また、ワインの面白いところは、世界中で造られているワインすべてが、その土地の「地酒」になれることではないでしょうか。それを表すかのように、ワインが作られる国や地域、品種の範囲はどんどん広がっていますし、日本でもさまざまな土地でワインが造られるようになりました。サドヤが造っているぶどうの品種は、「カベルネ・ソーヴィニョン」と「セミヨン」の2種類ですが、世界各国でワイン造りに使用されているぶどうの品種は数十種類に及びます。より個性が豊かになり、品質にも幅が出てくることは、飲み手にとっても楽しいことだと思います。

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1946年。シャトーブリヤンの誕生。

1936年に自社農場でのぶどう栽培を始めた当初は、フランスから仕入れた、40種類のぶどうを栽培しながら、甲府の風土とワイン造りに適した品種について研究する毎日でした。そうした中、現在メインで使用している、「カベルネ・ソーヴィニョン」と「セミヨン」を原料にした辛口ワインの醸造に注力することを決めて、さらに試行錯誤を繰り返します。そして10年が過ぎた1946年。それまでにない、高品質なぶどうが収穫され、その品質を確保したワインをサドヤの代表的なブランドにしようと、「シャトーブリヤン」が誕生しました。シャトー(Chateau)とは、お城や畑・ワイナリー等を指し、ブリヤン(Brillant)には、「輝く」。「いつまでも輝いた存在でいよう」という思いが込められています。
「シャトーブリヤン」は、良年のみヴィンテージを記すと決めています。こうしたブランドが誕生した背景から、造れない年もあります。代表銘柄の定義とはそうでなければいけないし、それを守らなければ、短命で終わってしまいます。これからもサドヤの代表ブランドとしての品質を約束します。

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醸造所の地下にある、広大なワイン貯蔵庫にて。

この地下空間には約60万本のワインボトルが貯蔵されています。現在、一年の出荷量が約20万本ですので、3年分に相当する量です。ワインを熟成させる樽は、オークと呼ばれる樽材を使用しており、樽貯蔵の熟成期間は、樽の風味をほどよく活かせるよう最大で2年間。その後一升瓶にワインを詰め、コルクで栓をして、温度・湿度共に一定に保たれるこの地下空間で、貯蔵・熟成させています。最も古いものは1962年から貯蔵していますので、50年以上熟成させていることになります。欧州のワイナリーでは「ビンテージワイン」として扱われ、ものすごい値がついているものもありますが、サドヤではより多くの方に楽しんでいただきたいので、1962年産を1本5万円で販売しています。

サドヤは現在、「KONAYA HOTEL」(コナヤ ホテル)の傘下で事業展開をしているため、ブライダル事業・レストラン事業もサドヤ・シャトー・ド・プロヴァンス、レストラン レアル・ドールとして展開しています。醸造所の地下にあるこの樽の貯蔵空間は、チャペルに入る前、新郎・新婦と共にゲストの皆さまに通っていただくのですが、凛とした空間の雰囲気からか、皆さまに「神聖な気持ちでチャペルに入れる」と、喜んでいただいています。そのせいか、ウェディングパーティにおける、ワインの消費量も一般的な水準よりかなり多いようです(笑)。創業時に一から開拓したこの土地に、ワインをお買い求めいただくお客さまだけでなく、多くの方が集まって下さることは、とても嬉しいことです。

食事はあくまでも「人」が主役であり、料理だけでも、お酒だけでも成立しません。サドヤが目指すワインは、大切な人と楽しむ、かけがえのない食事の席に選ばれるワインです。日本の食文化に「ワイン」が定着していくのは、まだまだこれからですが、私たちの役割は、まず品質の高いワインを造り続けること。そして、より多くの方に山梨のワインを楽しんでいただくために、私たちが歩んできた歴史や、ワイン造りへのこだわり・ストーリーを伝えて行くことだと考えています。
これからも、山梨のワインの可能性を信じ、失敗を恐れずに新しい挑戦を続けて行きます!

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