更新日:2018年11月12日

Japan Vision Vol.130|地域の未来を支える人 熊本県熊本市
熊本市経済観光局 熊本城総合事務所 副所長
野本 達雄さん

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地域の未来を応援する「Japan Vision」。第130回目となる今日は、熊本市経済観光局 熊本城総合事務所・副所長:野本達雄さんのメッセージをご紹介します。

熊本城は2016年4月に発生した「平成28年熊本地震」により、特別史跡熊本城跡としての文化財並びに熊本城公園としての都市公園の両面から、全域的に甚大な被害を受けました。熊本城のシンボルであった「天守閣」、かつて外敵から城内を守り「武者返し(むしゃがえし)」と呼ばれていた頑強な石垣、城内各所の防衛をつかさどってきた櫓(やぐら)や長塀(ながべい)など、その多くが被害を受けました。
2016年12月に策定した復旧基本方針に基づき、2018年4月に発表された「熊本城復旧基本計画」によると、復旧に要する期間は20年間(2022年度までの5年間を短期、計画期間終期までの20年間を中期、100年先の将来の復元整備完了までを長期として位置付けています)、長い歳月と多大な費用に加え、高い専門知識・技術、そしてマンパワーが必要です。

熊本城の復旧方針では「地震直前の状態」に復旧することを原則・基本とし、石垣に使われていた石やその他の建材も、使用が可能なものはすべて“もともと使用されていた箇所に戻す”ことを前提としています。そのため、膨大な手間と緻密な計画が必要なのです。震災の記憶とともに、熊本城のかつての姿を次世代へと繋ぐ、「熊本城復旧基本計画」と今後の展望について、野本 達雄さんにお話をうかがいました。※野本さんは熊本市の出身で、「平成28年熊本地震」を現地で体験されています。

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築城から400年の歴史の中で、最も大きな被害

大地震の発生後、最初に行ったことは、被害状況の確認作業です。城内各エリアをひとつひとつ確認していくなかで見た、地震による熊本城のダメージは私たちの想像を超えたものでした。築城から400年の歴史の中でも、地震による被害は幾度となくあったようですし、西南戦争直前の火災で大小天守などを焼失してしまうような事態も起こりましたが、ここまで損壊したことはこれまでになかったと思います。
国の重要文化財に指定されている櫓や城門、塀などが多い熊本城の復旧計画は、「地震直前の状態」に戻すことを前提としていますが、もともとお城は「要塞」であり、外敵が攻めにくいように作られているため、復旧がしやすい構造にはなっていません。「天守閣」の大天守最上階の瓦のほとんどが崩落していることは、お城の外からでも直ぐに確認ができたものの、天守閣に辿り着く前の櫓や塀、櫓の下にある塀や石垣も倒壊・崩落している箇所が多く見つかったため、工事用の重機もすぐには入れられない状況でした。さらに大雨や、大きくない地震でも崩れてしまいそうな箇所が散見されたため、最低限の処置と復旧に向けた基本方針を立てるのにもかなりの時間を要しました。

大地震によるダメージがとりわけ大きかったのは「石垣」です。熊本城にある全ての石垣面を合計すると、973面ありますが、大規模に崩落してしまった面、一部が崩落してしまった面を含め、その多くに何らかの爪痕が残っています。幸いにも最初に地震が発生したのが夜だったこともあり、石垣の近くに人は少なかったのですが、平日のお昼には、石垣のある広場にお昼を食べにくる人も多く、時間帯によっては大変な犠牲が出てしまっていたかも知れません。
崩れてしまった石垣の石は、すべて城内に並べてあり、もとの位置に戻すために石の一つ一つを「石材台帳」というもので管理しています。石垣に積まれていた石の重さは、数百キロから大きいもので1トン近くもあり、復旧までには7~10万個くらいの積み直しが必要です。

復旧のために欠かせないのは「時間」と「お金」、そして「人」です。
復旧には長い時間と多額の費用が必要です。被害総額の試算では、およそ634億円といわれていますが、震災直後から実施している、熊本城の復旧・復元にご支援いただく方を募る「復興城主」制度(※)では、おかげさまで現在までにおよそ35億円もの支援金が集まりました。国からの災害補助予算と合わせて、大切に使わせていただきます。

そして時間とお金以外に、もうひとつ欠かせない大切な存在が、高い知識や技術を持った「人」です。前述の通り、被害の大きかった「石垣」を元の姿に戻すためには、「石工」さんたちの協力が欠かせませんし、櫓や塀、城門をはじめ、国の重要文化財に指定されている建造物の復旧には、専門知識を持った宮大工さんたちの協力が必要です。石工さんも宮大工さんも、年々減って来ている中で熊本城の修復のために集まっていただくことは、とても大きな課題です。

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大切にしていることは「復旧状況の見える化」。

地震が発生した年の12月に策定した「熊本城復旧基本方針」、そして今年の3月に策定した「熊本城復旧基本計画」の7つの基本方針では、震災の記憶を次世代に語り継いでいくこと、そして100年先を見据えて「往時の姿」へと復元していくことも計画しています。
通常、ビルなどの建物が倒壊してしまった場合、完全に修復されるまでは、シートなどで覆われてしまうことが多いですが、復旧計画で大切にしていることは「復旧状況の見える化」です。熊本城が復旧していくまでの長い過程を可能な限り一般に公開しながら、復旧工事を続けて行くことにしています。現在は一般の方が立ち入れる箇所は限られてしまっていますが、夜11時まで行われている天守閣のライトアップは、復旧作業中の現在も続けていますし、二の丸広場や加藤神社、その周辺から、天守閣や櫓などをご覧いただけます。そして2019年の国際スポーツ大会までを目指して、天守閣エリアに仮設見学通路を作る計画を立てています。復旧工事を継続しながら、一般の方にも安全に見渡せる場所から復旧の状況を見てもらうためです。この様に、復旧工事そのものを観光資源としても活用することで、結果としてより多くの方が熊本城の復旧工事に参加し、20年という復旧期間を1日でも短縮できるように努めています。

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復旧はまだ始まったばかりです。

大地震発生から2年が経ち、最優先に取り組んできた「大天守」の復旧ですが、今年4月に鯱(しゃちほこ)が元の姿に戻り、外観は2019年秋ごろに復旧完了する予定です。ですが、復旧はまだまだスタートライン付近に立っているにすぎません。熊本城だけでなく、被害の大きかった地域の状況も考えれば、大地震からの本当の復興はこれからが始まりです。

熊本の美しい自然や、豊富な地下水に育まれた美味しい農作物。そしてその熊本のシンボルのひとつである熊本城を1日でも早く元の姿に戻し、次世代へと繋いで行くために、熊本市民・県民の皆さまをはじめ、熊本城の復旧を願う多くの皆さまとともに、今後も全力で取り組んで行きます!

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野本 達雄さま そして熊本城総合事務所の皆さま。
お忙しいなか取材にご対応いただき、誠にありがとうございました。

■熊本城「復興城主」制度(※)
https://kumamoto-guide.jp/kumamoto-castle/fukkou/

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